第45話 いちごの捜査


 フェリシアに飛び掛かられる寸前にフローズン卿が間に入って阻止してくれる。

 いちごはその隙に私の腕から抜け出てふわりと空に舞い上がった。


「あ、まちないさい!」

 テーブルをなぎ倒してフェリシアはいちごを追いかけ回したが、手が届く寸前でうまくかわされ捕まえることがでない。


「誰かこいつを捕まえて!」


 いちご……間違いなく遊んでるわね。


 何度か躓いてボロボロになってもフェリシアは諦めなかったが、そのうち飽きたいちごは、フッとどこかへ消えてしまった。


「ちょっと、逃げられたじゃない。サージェ様、人手を集めてこの辺を捜索させてください」

 聖獣を見つけられないことで、相当焦っているようね。

 泥だらけの顔でサージェ様に迫るフェリシアは狐狩りで会った時の余裕は全く感じられない。


「捜索といっても……君以外見えないものをどうやって探すんだ?」

「近衛を大勢呼んで大声で追い立てれば、聖獣といっても動物だもの恐れをなして出てくるんじゃないかしら」

「いくらなんでも公爵家に近衛を大勢入れるなんて、後で問題になる」

 さすがのサージェ様もそんなことをすれば大ごとになると思ったのか、しどろもどろに答える。


「何が問題なんですか? 今日はアルフレッド様もいるので絶対に聖獣を見つけることはできます」

 自信たっぷりに、フェリシアは私に微笑んでみせた。

 笑顔だけ見れば天使なんだけどね。





「これはなんの騒ぎです?」

 このままではフェリシア様に押し切られて、屋敷の捜索をしなければならないかなと思っていたところに、凍りつくような冷たい声が響いた。


「お兄様!」

「ローズ遅くなってすまない。それにしても今日のお茶会に殿下がおいでになるとは聞いておりませんでしたが、知らせていただけたら僕の予定はキャンセルしてお出迎えしたのに」

 兄様、無表情がものすごく怖いんですけど。


「近くを通りかかったので寄ってみただけだ」

「何かよほど重要な要件でしょうか?」

「あ、いや……公爵家のバラは見事だと聞いたのでフェリシアにみせたかっただけだ」

 サージェ様は硬い表情でそう答えると、さりげなくフェリシアの腕を掴んで私から引き離した。


「そうですか、先ほどアルデンヌ家の敷地に護衛以外に近衛を入れて捜索させると聞こえたのですが、何かの聞き違いだったのですね」

 口角を上げて微笑む兄様は、悪魔のようにしか見えない。

 この場の空気が一気に下がった気がするのに、一人だけ空気を読めずに反論したものがいた。


「カイル、聞き間違いなんかじゃないわ。私、先ほど聖獣と運命の出会いを果たしたの。でもみんなが騒ぐから逃げちゃったのよ。とりあえず屋敷の庭を捜索させてもいいでしょ」

 コッテっと首を傾けて、フェリシアがお願いポーズを決める。

 この人、心臓に毛が生えているのかもしれないわ。


「フェリシア様お一人で探されるのなら許可します。残念ですが、サージェ様の護衛2名以外は誰一人としてこのアルデンヌ公爵家に入れるわけにはいきません」

「どうしてよ。まさか、屋敷を捜索されるとまずいことでもあるの?」

「フェリシア。それ以上はいくら君でも許されない」

 珍しく、サージェ様が声を荒げる。


「サージェ様?」

 多分一度としてサージェ様からこんなふうに強い口調で怒られたことがないのだろう。フェリシアはたちまちうるうると目にいっぱいの涙を溜めてフローズン卿の後ろに隠れる。

 切り返しが早いわね。

 まさか、これを機会に攻略しようとしてる? さっき一番の推しですとか言ってたし。



「アルフレッド様。カイルもサージェ様も酷いです。聖獣を捕まえれば私は聖女としてさらに覚醒できるのに! アルフレッド様は一緒に探してくれますよね」

「申し訳ないですが、それはできかねます」

 素早く、フェリシアから距離を取ると、フローズン卿はちょっと面倒くさそうにため息をついた。

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