第44話 バレました 2

「フローズン卿、やっぱりこれはイベントなんですね! なんでこんなところで起こるのかわからないけど、そのもふもふの聖獣は私のものなんです。そいつから取り返してください」

 フェリシアは目をギラギラさせてフローズン卿の前で立ち止まると、嬉々として私を指さした。

 仮にも、公爵令嬢なんですけど……そいつってことはないでしょ。


「殿下、こちらのご令嬢はお連れ様ですか?」

 フローズン卿はフェリシアには目もくれず、サージェ様に礼儀正しく頭を下げる。


「フローズン卿、フェリシアは私の大切な人だ。君が領地に帰る前にどうしても会いたいと言うので連れてきた。ローズ嬢、招待状もなくお邪魔してすまないな」

 どこから今日のお茶会がバレたのかわからないけど、ボンクラだと油断しすぎていたみたいね。


「お初にお目にかかります。フローズン・アルフレッドと申します」




「殿下、フェリシア様、狐狩りでは大変お世話になりました。珍しいものはご用意できませんが席を作りますのでごゆっくりしていってください」

 私はすでに席の準備を整えて待機しているメイドに視線を送った。

 さすが公爵家の使用人である。

 これくらいのトラブルは想定内ということね。

 私も、なんとか乗り切らなくては。

 それにしても、サージェ様はクレイドをいないものとして扱うつもりね。

 なんて、心が狭いのかしら。


「アルフレッド様。あなたは私の一番の推し様です。ずっとお会いしたかったです」

 さっきの勢いはどこへやら、フェリシアは両手を胸の前で組み身体をくねらせた。

 アルフレッドって、いきなり!


「ご令嬢とは初めてお会いすると存じます。誤解されては困りますので名前で呼ぶのはご遠慮願います」

 まったく表情を変えずに淡々とフローズン卿はフェリシアに告げる。


「まあ、先ほど名乗ってくださったではありませんか。照れなくてもよろしくってよ」

 いやいや、照れているわけじゃないから。

 今までの会話でどうしたらフローズン卿が照れているように勘違いできるの?


「そんなことより、アルフレッド様。あの娘から私の聖獣を取り返してください」

 ずっと目上のフローズン卿に当然のように指示を出し、フェリシアは私を睨んだ。


「それはできかねます」

 私がどうすべきか一瞬戸惑う間に、フローズン卿がはっきりと断ってくれる。


「どうしてよ。あれは私のものでそれを手に入れるのがアルフレッド様の役目でしょ」

「フェリシア。落ちついて。フローズン卿もいないものを取り返すことはできないよ」

 これをイベントだと信じて疑わないフェリシアの言葉を否定したのは、誰でもないサージェ様だった。


「は? サージェ様何を言っているのです? あの聖獣は私のです。まさか聖獣が見えないんですか?」

 信じられないというように、フェリシアはサージェ様に驚いている。


 サージェ様は気まずそうに言葉に詰まると、視線を私とクレイドに向けた。

 お前らはどうなんだと言いたいのだろう。


 もちろんここはあなたに乗ります。

 私は泣きそうな顔でブンブンをと頭を振り、クレイドもそれにならう。


 これで、いちごが見えると主張しているのはフェリシアだけである。


「いいです。私が自分で取り返します。サージェ様はそこにいてください」

 ムッとした顔で、フェリシアが宣言するとクレイドを突き飛ばして私に掴みかかってきた。



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