第43話 バレました。


「案外早く金竜を探しにいけるかもしれないわね」

 フローズン卿やジルバがついているとはいえ、城に引きこもっていたクレイドが金竜が住んでいそうな場所に旅をすることは難しいだろうと思っていたが、魔獣を相手にするバーンズ領の騎士団の訓練に参加できるほどの腕前とは驚きである。


「いちご、金竜の居場所はわかっているんでしょ。あ、そういえば聞こうと思っていたんだけどまさか金竜もあなたの弟子ってことはないよね」

 軽い気持ちで聞いたのに、いちごは眉を顰めて私を見た。

 ん?

 もしかして、金竜の居場所がわからないの?


「あいつとわしは犬猿の仲じゃ……じゃがだいたいの居場所はわかっとる」

 犬猿って……狼のジルバならともかく竜ともふもふの聖獣に対しても使うの?

 そう考えるとちょっとおかしくて、私は不謹慎だけど笑ってしまう。


「なんじゃ?」

「ううん、なんでもない。ジルバも仲が悪いの?」

「知らん」

「ジルバには後で聞いておきます」

 フローズン卿はそういってくれたが、いちごが金竜と仲が悪いのなら弟子のジルバもきっと一緒よね。


「あいつは偏屈だから、誰の助言も聞かんじゃろ。金竜と契約する人間が気に入られるしかない」

 そうなんだ。


「でも、もともと金竜は王家の守護聖獣だったこともあるんだから、きっと大丈夫よ」

「どちらにしても、今のこいつでは金竜と契約を結ぶのは無理じゃな」

 いちごがテーブルからぴょんと私の膝の上に着地してクレイドをじっと見つめた。


「なぜ?」

「身体も魔力も未熟じゃ。精霊ならまだしも竜との契約となれば相手の魔力に少なからず影響を受ける。それに耐えられないような人間とははなから契約などせん」

「そんな……」

 いちごの言葉にクレイドは手を握りしめて俯いてしまう。

 なんてこと言うのよ。せっかくクレイドがやる気になっているのに。私は偉そうにテーブルの上に座るいちごのお尻を突いて睨んだ。


「そう落ち込むでない。今はといったじゃろ。魔力量は十分なのじゃからもっと身体が成長し魔力を自在に操れるようになれば希望はある」

「本当か」

「嘘は言わん」

 いちごは髭を前脚で整え、フォローはしてやったぞと言う顔をした。それからビヨーンと伸びをして膝の上で丸まる。


「そうか。ローズ、君と会えないのは寂しいけど、頑張って身体を鍛えるよ」

「そうね。焦らずまずはバーンズ領で色々な経験をしたらいいわ」

 ちょっとしんみりとした空気が漂ったところで、温室の入り口付近でガヤガヤと人々の揉める声がする。


 ✳︎


「ちょっと、使用人の分際で殿下の意向を無視するというの?」

 この声には聞き覚えがある。

 そう思った時には遅かった。


「あ——! 私の聖獣!!!」

 ヒロインちゃんは指さしてそう叫ぶと入り口を塞ぐメイドを突き飛ばして温室の中に駆け込んできた。その後ろをサージェ様がのんびりとした歩調で入ってくる。


 私は咄嗟に膝の上に乗るいちごを抱きしめて立ち上がった。

 なんで? なんでここにフェリシアが?


 フェリシアが近づいたらわかるっていったじゃない?

 私は視線でいちごに聞いた。


「すまん。温室に張ってある結界が逆にあの貪欲な気配を弾いていた」

 そんなぁぁぁ。

 逃げるって言うのは無しよね。


 どうしようか考えを巡らしている私の前に、フローズン卿とクレイドが立ち上がりたてになってくれる。

 ありがたいけど、相手はサージェ様を連れている。手を出すことはできない。

 ううう。こんな時腹黒の兄様がいればなんとかうまく言い訳してくれるのに……。

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