第42話 ローズ、お茶会をする。

「フローズン卿。忙しいところ来てくれて嬉しいわ」

 今日は狐狩りでフローズン卿と会ってから久々の対面だ。

 兄様は王宮やフローズン卿のタウンハウスで何度か打ち合わせをしてくれたが、まだデビュー前の私が一緒に尋ねる正当な理由がなく、クレイドのバーンズ領行きにアルデンヌ公爵家が関わっていると悟られないために私は大人しくしていた。


「こちらこそ、ローズ様のお茶会に招待いただきありがとうございます。ジルバのことではもう一度お礼を言いたかったのです」

 建国祭を数日後に控え、アルデンヌ公爵家の温室ではフローズン卿が穏やかな表情で微笑むと、テーブルに並んだチョコレートケーキを口に運んだ。

 初めて会った時はテーブルに座ることさえ拒否されたのに、ずいぶん進歩したわね。


「ジルバとは一緒じゃないの?」

「今日は私の家でクレイド様と剣術の稽古だったので別の用事を頼んであります」

 本当に来てくれるか心配していたのでよかった。


「ジルバと言葉を交わせるようになり、別行動していても正確な報告が聞けるので諜報活動の精度が格段にあがりました」

 ニヤリ、と悪い顔でフローズン卿は微笑んだ。

 あんなに清廉潔白そうだったフローズン卿がまるで兄様の腹黒が映ったようで怖い。


「それにしても、陛下がクレイドがバーンズ領へ行くことを許してくれてホッとしました」

 正直、戦場ではなくなったバーンズ領にクレイドを送る意味がないと判断されるのではないかと少し心配だったのだ。


「しかも、剣術の稽古まで許してくれるなんて、どういう心境の変化かしら?」

「剣術の指南はフローズン卿が国王父上に話してくれたんだ」

 クレイドが尊敬の眼差しをフローズン卿に向ける。

 あらら、ずいぶん仲良くなったのね。


「隣国との関係は改善したが、魔獣による攻撃が多いのは確かですから。陛下の思惑を逆手にとってある程度の剣術の腕があれば討伐に参加してもらいたいと申し出たんだ」

 なるほど、国王はやっぱりクズ確定だ。


「ローズ、そんな顔をしないでくれ。フローズン卿との訓練はすごく楽しいから」

 クレイドは言葉通りスッキリした顔をしている。


 そうね。

 王宮にずっと閉じ込められ、やっとそこから抜け出せるんだもの。私が暗い顔をしていてはダメだ。


「クレイド様の腕はすぐにでもバーンズ領で騎士団の訓練にもついていけるほどで驚きました」

「え? クレイドって剣術を習っていたの?」

「……」

 それまで機嫌よくお茶をしていたクレイドが急に黙り込み。答えたくなさそうに視線を逸らす。


 何かまずいことを聞いた?


「母が亡くなって数年は実家である子爵家出身の護衛がいたんだ。こっそりと彼に剣術を指南してもらっていたんだけど、それが陛下にバレたみたいで子爵家に返された。それからは独自で訓練したりこっそり城を抜け出して傭兵に習ったりした」

 は?

 最後の方がちょっと聞き取りにくかったけど、城を抜け出してって?

 まさか、あの妖精から教えてもらった通路をクレイドも知っていたのか……。


「ここ数年は監視が厳しくて城を抜け出すことはなかったよ」

 悪いことがバレた子供のように慌てて言い訳を口にしたけど、私はちょっとクレイドを見直した。


「何もできずに城に閉じ込められた、可哀想な王子様だと思っていたけど、意外に骨があるんじゃない」

「へへへ、そうかな」

 これなら辺境と言われるバーンズ領に行っても食らいついていけるだろう。










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