第16話 本性 フェリシア視点
「ふふふ……」
春バラ茶会でのエレノアの顔を思い出すたびに、知らず知らず笑いがこみ上げてくる。
「何か楽しい事でもあったのかい?」
「はい殿下。今日はとっても素敵な夢を見たんですの」
エレノアが私たちの婚約を知り悔し涙にくれ、あちこち八つ当たりして暴れるシーンだ。
手あたり次第にメイドに手を上げ、どんどん孤立していく。
愉快な夢だった。
「白いふわふわの動物と出会う夢です」
もちろん本当のことは言わない。
とっさに私は夢見る乙女を演じる。
「ふわふわ? 猫かな?」
「いいえ、瞳がピンクで空を飛べるとっても不思議な生き物です。私とお友達になりたいんですって」
さりげなく、サージェに寄りかかるとほのかに頬がピンク色に染まる。
ちょろいわね。
「それは、君の髪とお揃いでとてもかわいいのだろうな。もしかしたら今は見られない妖精か精霊かもしれない。フェリシアの純真さなら現れても不思議じゃない」
サージェ殿下は片手で私の髪をすくい、キスを落した。
まあ、殿下にしては鋭いじゃない。
ヒロインを覚醒させるのが白いもふもふの聖獣なのだ。
王家主催の狩を見物中にモフモフと出会い、聖獣に名前をあたえ契約する。その後、獣に襲われるのを隠れキャラに助けられるイベントだ。
聖獣と契約することにより、魔力がどんどん増え、やがてピークを迎えると覚醒して光の魔法を手に入れる。
ただ、問題はその聖獣の名前を思い出せないことだ。
かってに好きな名前つけてしまってもいいのか。
決められた名前でなければならないのか、いまいちわからない。
ここまで、ちょっとのずれはあるにしろ、何もかもうまくいっている。
少しくらい名前が違っても問題ないはず。
「それよりもフェリシア、母上のことは本当に申し訳ない。私を皇太子にしようとエレノアと婚約させたのでいまだに怒っているんだ」
ああ、いまだにのらりくらりと理由をつけてわたしを避けている王妃ね。
でも大丈夫。
彼女の目的も弱味も握っているから。
「大丈夫ですわ、サージェ様。私、お母様に気に入られるように努力します」
まあ、努力なんかしなくても光魔法を覚醒させれば誰も文句は言ってこないんだけどね。
王宮の作法だって、やり込んだゲームのおかげで簡単にクリアできたし。
白いもふもふの好感度を上げればあっという間に魔力も最高値にとどくはず。
ただ、気になるのはここが本当にゲームの世界かということだ。
この「薔薇の乙女に花冠を」はヒロインが悩みを抱える少年たちを攻略するシンプルなテンプレ乙女ゲームだ。
絵柄が好きでやりこんだので細かい部分まで覚えている自信がある。
だからこそハーレムエンドを狙ったのに、いまだ数人攻略できていないキャラはいるし、王子ルートの場合、悪役令嬢は修道院送りだったはずなのに、なぜか国外追放されてしまった。
続編では修道院でラスボスに変わる予告を見たのに間違いだったのか?
まあ、国外に行ってしまえば、悪役令嬢により王都炎上は避けられるわけだから好都合ね。
可能性としてはヒロイン、つまり私が転生者なのでシナリオが微妙にずれてきている。もしくはここはゲームの世界ではなく、ゲームの原作の世界である場合。
そうだとすると、ちょっとまずい。
原作は読んでいないが、ゲームのラストとは違うという噂だった。
まあ、それほど大きな違いは無いだろうし、ハーレムエンドは無理だけど王子の攻略は成功した。
あとはお父様の計画を手伝えばドレスと宝石、パーティ三昧の楽勝人生だわ。
「そうですわ。サージェ様。私、子供っぽい色のドレスしか持ち合わせていませんの。エレノア様はとても大人っぽいお方でしたから、このまま王妃様にお会いして子供っぽいと思われるのはなんだか恥ずかしいです。良ければエレノア様がドレスを作っているお店を紹介していただけませんか?」
先日、お店に行ったのだけど紹介がなければ入れないと門前払いされてしまったのだ。
あの店員。
男爵家だと馬鹿にしたようにあしらってくれて、殿下と一緒に行って目にもの見せてやらないと気がすまない。
「もちろんだよ」
「まあ、嬉しい。じゃあ今度一緒に行きましょうね」
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