第39話 悪巧み
「まさか、フェリシア嬢が闇の聖獣を召喚するとでも?」
兄様はいくらなんでもそこまではしないだろうと言いたい様だが、フェリシアはなんとしても聖獣と契約して聖女にならなくてはならないはずだ。
ゲームではクエストをクリアできなければ間違いなくバッドエンドになる。
それに、転生者であるフェリシアは闇の精霊を呼び出すことに抵抗はないはずだ。
「聖獣と契約し聖女と認められることはハッピーエンドの絶対条件なの、絶対に手に入れようとすると思う」
フェリシアの身分ではサージェ様の後ろ盾になることはできないので、王妃様には認めてもらえない。
王妃様に認められなければ、いくらサージェ様がフェリシアのことが好きでも婚約することは難しい。
まあ、フェリシアの方はサージェ様のことが好きというより王妃の座が目当てなんだろうけど。
フェリシアには一度しか会っていないが、権力とお金が何よりも好きな人種に見えた。
「今はまだ、いちごとの契約に失敗したと気づいていないけど、いつまでも出会いイベントが起きなければ次の方法を探すはず」
光の聖獣と同じくらいの力を持つ存在。
それが闇の聖獣だ。
普通ならそんなこと知る術もないが、ゲームをやっていれば悪役令嬢が光の聖獣に対抗する術として闇の聖獣を召喚することは誰でも知っている。
「フェリシアより先に禁書を手に知れないくては」
「ローズ、それはまた無茶苦茶な頼みだってわかってる?」
私は無言で兄様に微笑み返した。
「うぅぅぅぅ。ローズ、僕が何でもかんでもお願いをきくとは思うなよ」
「なんでもきいてくれるとは思っていないけど、禁書は手に入れてくれるでしょ?」
「……」
兄様は肩を落としてこれ見よがしにため息をついた。
「仕方ないな……。それにしても闇の聖獣の魔力を光の魔法だと偽ることなんかできるのか?」
「できるでしょ。あらかじめゲームで聖女降臨のシーンがわかっているんだから、膨大な魔力さえあれえば偽装できるわ」
「平民はともかく、いくらなんでも教会を騙すのは難しいんじゃ無いのか?」
クレイドが至極当然の疑問を口にした。
「今の神官に光の聖獣を見た者はいないし、聖女の魔力がどんなものか見たものはいないからな」
兄様が何か含んだものの言い方をして、ソファーの脚で爪を研いでいるいちごに視線を送った。
確かに、これが光の聖獣だとは誰も想像できないだろう。
「それに今は教会への信仰も薄れている。聖女が本物であると認定されればまた信者も戻って来るとそそのかすことは可能だろうな」
そんな真っ黒いことを考えて実行できるのは兄様くらいものです。
「ではお兄様とクレイドで、フェリシア様より早く禁書を探して盗んできてくださいね」
兄様はやれやれと言いながらも頷いたが、クレイドは眉を顰めてものすごく嫌そうな顔をした。
「クレイド、私たちはもうチームなんだからみんなで協力しないと」
「わかったよ。でも、僕は嫌われ者だから役には立てないと思うけど」
もう、王子様が自分で嫌われ者だなんて言わないの。
まずは自己肯定感をあげる必要があるわね。
「それよりも、僕がバーンズ領で魔獣に襲われて死んだことにした方が時間が稼げるんじゃないのか? あ、毒殺だったけ?」
「なんてことを言うの! 冗談でもそんなのダメよ」
「冗談になりません」
私とお兄様に強く否定されて、クレイドはなぜかちょっと嬉しそうに笑った。
「ありがとう。そんなに真面目に否定してくれるなんて思ってもなかった。でも、卑怯な手を使う人間には正攻法だけでは勝てない場合もあるんじゃないかな」
「確かに、その通りです。ですが、今はその時ではないですし王族の死を偽装するのは大罪です。やるにしても念入りに計画しなくては」
やる気はあるんかーい!
と突っ込みたかったが、兄様の黒い笑みを見てクレイドが満足そうなので突っ込まないでおこう。
「まずはやれることからしよう。その禁書の題名は?」
「わかりません」
「はぁ?」
「じゃあどうやって探すのさ」
「クレイド殿下、大丈夫です。いつものことですから。二人で頑張りましょう」
兄様、クレイドに丸投げするつもりじゃないでしょうね。
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