第11話 美少女は不遇の王子から婚約を申し込まれる
「人間は身体の中でためておける魔力量がある程度決まっています。魔法陣を使い効率よく魔力を使う事は出来ますが、魔力が尽きれば終わり。精霊はその魔力を補ってくれる存在にもなり得るのです」
「魔力を補う?」
それだけではない、代わりに魔法を使って頼みを聞いてくれたりもする。
「そうです。とくに精霊と人間が身体のどこかに同じ色を
フローズン卿と銀狼ではブルーがかった銀髪が同じ色だ。
王家に受け継がれる黄金の瞳も精霊と繋がることができる特別な色だとしたら、金竜が最も確率が高い精霊に違いない。
「細かいことは不明ですが、クレイドの魔力を覚醒させるのは金竜がカギになるんじゃないかと思うんです。他に金色の聖獣知らないし。どちらにしろ、国外に移住しないなら暗殺される前に魔力を覚醒させるしかないでしょ」
「どうしてお前はそんなことを知っているんだ、いくら宰相の子だとしても知りすぎだろ」
呆れた、と言いたげにぼやいているが、その瞳はちょっと楽しげだ。
「それは秘密です」
「秘密? お前は僕の味方だと証明するんじゃなかったのか?」
うん、拗ねた顔が年相応に見えてきた。
「味方ですけど、それを証明すると約束はしてません。それに今のところクレイドに同情しているのは、このままでは暗殺されてしまいそうだからです。逆に言えば、それ以外のことはギブアンドテイクといった感じですかね」
親にも、兄妹にも使用人にも恵まれていないようだけど、腐っても王族だ。暗殺以外は自分で何とかしてほしい。
推しには精神的にも強くなってもらわなくては。
「は? ギブアンドテイク?」
クレイドは私の言葉が気に食わなかったのか、呆然と言葉を繰り返しただけだった。
「そうですよ。あまりに過剰な同情はかえって怪しいでしょ。今日知り合ったばかりで、私は聖女でも女神でもないですし」
「……確かに見返りのない親切は今まで受けたことがない」
それははそれでかわいそすぎるよね。
結構、詰め込んで説明したから、状況把握が追い付いていないかな?
「で、魔力を覚醒するために、金竜をどうやって探すんだ?」
「銀狼はフローズン卿の守護精霊です。金竜を探せるとしたら彼だけだし、今生きている人間で魔力の覚醒をしているのも彼だけです。このまま暗殺されたくないなら、何でもいいから自力で彼にくっついて懐柔してください」
「は? 自力で?」
「だって、私は今振られたでしょ」
「そんなの無理だろ」
「なんでです? クレイドは誰が何と言おうと王子様だし。彼が辺境に行くのは建国祭後です。口説く時間はまだまだあるでしょ」
さっきのふてぶてしい勢いはどこへやら、クレイドはうつ向いて黙り込んでしまった。
私は勝手にお茶を注ぐと、クレイドの答えをじっと待った。
「国王が僕を城から出すとは思えない」
ぼそり弱々しい声でクレイドが呟くとまたそれっきり黙り込んでしまう。
気持ちはわかる。
生まれてからずっと、暗殺の危機に直面し、王子らしいあつかいなど誰にも受けず世間から隔離されてきたのだ。それなのに黄金の瞳のせいで王にまで疎まれてまともな教育もされていない。
通りがかりの少女に言われてすぐに決心しろというのは無理がある。
それでも、チャンスがあるなら行動しなくちゃならない。いつまでも殻に閉じこもって殺されるのを待っているだけでは駄目なのだ。
やがて、沈黙の後クレイドが言ったのは想像したのとは違った。
「ローズ一つお願いがある。僕と婚約してくれない?」
「え? 婚約? 婚約破棄じゃなくて?」
「婚約してないのに婚約破棄できないだろ?」
「まって、第五王子って不遇の人じゃなくて女たらしだったの?」
「今の声に出てたけど、不敬罪だよ?」
ツンツンな態度は変わらないのに、彼が怒っていないのはわかる。
「それは失礼」
「別に婚約者なら不敬にならないからいいよ」
頭を上げるとクレイドは私の手をギュッと握った。いつの間にか距離が近い。
うわぁ、どうしよう。
推しからプロポーズされた……。
鼻血でそう。
「もしも力が目覚めることになったら、きっと僕に消えて欲しいと思う人たちがいっぱいだろう」
まあ、確かに今でさえ警戒されているのだから、覚醒すればいっきに政治の情勢が変わる。
「ああ、後ろ盾という事 契約結婚ですね」
わかってましたよ。
ちょっと夢見ただけですから。
「そう、今はそういう事でいいよ。婚約してくれる?」
婚約者となれば金竜を一緒に探すのも不審がられないだろうし、私兵を送り込むこともできるから、毒殺を阻止することも可能かもしれない。
「それなら……」
いいよ。と言いかけた瞬間、私の手をクレイドから奪い返し、カイル兄様が大声で「お断りします」と言い切った。
「お兄様!」
「殿下、ローズの婚約者はアルデンヌ公爵家より財力があり、アルデンヌ公爵より政治手腕と剣の腕を持ち、僕より賢くローズより魔力が大きい男です。申し訳ないですが今の殿下では検討の余地もありません」
普段から猫をかぶっているカイル兄様からは想像できないくらいキツい表情で殿下を一瞥した後、私の手を握ったままどんどん歩き出し、あっという間に馬車に乗せられ自宅へと向かった。
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