第10話 美少女は銀の騎士に軽くあしらわれる

「ローズ様はお可愛らしい方ですね。金竜は虹の彼方に住んでいるそうですよ。残念ながら大人になってしまうと見えなくなるそうですので、申し訳ないですが私には探し出せないでしょう」

 フッと冷たい笑みを浮かべ、子供のおとぎ話に話をすり替えられる。


 結構責めたんだけど、面の皮が厚過ぎてどうも攻略できそうもない。

 手の内をこれ以上みせるのも悔しいので今日は顔合わせだけで諦めようか。


 そもそも今日はエレノア様の断罪を見に来ただけだ、計画にないことに深くかかわるべきではない。


 でも、もう少し爪痕を残したい。


「そうなんですか? 虹の彼方など勇者様じゃないと、たどり着くことはできないですね。金竜もと同じでフローズン卿になら見つけられると信じていましたのに残念です」


「私が銀狼を見つけたと?」

「ジルバは銀狼でしょ?」

「ローズ様は誰からそのようなお話をお聞きに?」

「さあ、誰だったかしら? 戦場で銀色の髪をなびかせて戦う姿は、天を翔る銀狼の姿のようにさぞ美しかったでしょう。フローズン卿の素敵な髪は銀狼とお揃いっていう噂が出るのも納得です」

 もちろんそんな噂はない。


 どうよ、どうよ。

 先に金竜をおとぎ話の存在にしてしまったのはフローズン卿だ。銀狼の存在もおとぎ話として笑い飛ばすのは簡単だが、その名前が「ジルバ」であるということまで私が知っている理由を問いただしたいでしょ?


 今日は解放してあげることにしたけど、このもやもやをあなたも引きずって帰りなさい。

 にっこりと瞳を輝かせて夢見る少女のふりをするのも忘れない。


「なるほど、それは光栄です。今日はお二方とお話ができ大変楽しかったです。これから先、金竜のうわさを聞きましたら、真っ先にローズ様にお知らせいたしましょう。では」

 フローズン卿の言葉には全く感情がこもっていなかったが、絶対に私のことを要注意人物に認定したはず。

 味方にはできなかったけど顔見知りくらいにはなれたのではないだろうか。


 ✳︎


「今のはいったいどういう意図だ?」

 あ、フローズン卿との会話に集中しすぎて忘れてた。


「殿下。クレイド殿下。クレイド様。王子様どれがいいですか? ついでに言葉遣いも直しましょうか?」

 クレイドの質問には答えず、私の立ち位置を確認することにした。こっそり隠れている時に出会ったので、もちろんお互いに自己紹介もしていない。話の流れで名のることはできたがそうしなかったのはどちらにも後ろめたさがあったからだろう。

 しかし、フローズン卿がしっかり挨拶をしたせいで、お互いの身分をあいまいで済ませられなくなってしまった。


「クレイドと、敬語も必要ない」

 ふーん、態度はツンだけど呼び捨てでいいと言うことはこちらはお友達認定してくれたんだ。

 うん、デレまではそう遠くなさそう。

 嬉しいけどこんなにすぐ警戒心を解いてくれるなんて、孤独な王子が初めて気安く話しかけててくれた少女に興味を持つっていうテンプレかな?


「わかりました。では私のことはローズと呼んでください」


「それより、フォローズン卿と話していた金竜のこと。お前はいったい何を知っている」

「クレイド、私はお前ではなくローズです。お前と呼ぶなら私もクレイド殿下とよそよそしく呼びます。それに感情が顔に出すぎだし。フローズン卿と同じくらい狸になれとは言いませんが、不機嫌なのは隠してください」

「不機嫌?」

「ほら、眉間に皺が寄ってる。今は子供だからつるつるですが、大人になったらここに皺のあとがくっきり残こりますよ」

 私はクレイドの眉間のしわを、人差し指でスッと撫でて伸ばしてあげた。


「なっ!!」

 咄嗟に手を振り払われてしまう。

 クレイドはうつむいて両手を握りしめ、何かに耐えているように肩を震わせた。


 怒ってはいなさそうだが、人にさわられるのに慣れていないのかもしれない。


「不用意にふれてごめんなさい。不快でしたか?」

「驚いただけだ」

「気を付けますね。では、本題。金竜とはクレイドの守護精霊なんじゃないかと推測します」

「守護精霊? そんな話は聞いたことがない」

 まあ、そうですよね。

 この世界での魔法は、生まれながらに持つ魔力を魔法陣を習得して使うのが一般的だ。12歳になると教会で魔力量を測定され、一定数あれば魔法学園へと進学できる。


「魔法陣ではなく、精霊の力を借りて魔法を使うものがいるのを知っていますか?」

 精霊自体存在が稀であり、それを見ることができる人間はさらに希少な存在なのだ。隔離されて育ったクレイドが守護精霊を知らないのは当然といえば当然だ。

 実はこれが魔力の覚醒に大きくかかわってくる。


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