第52話 提案

「せっかく街を案内しようと思ったのに、飛んだ邪魔が入ったな」

「ううん。そんなことない。バーンズ領の真髄を見た気がした」

「そうか?」

「あの、魔獣はどうするの?」

 魔石のついた矢で倒された魔獣を城壁の外に無惨な姿で放置しておくわけにもいかないだろう。


「総出で、解体する。魔獣の魔石は武器に加工されるし、皮や肉も貴重な貿易商品になる。兵士以外にも魔獣を矢で狙っていたものが沢山いただろう?」

「傭兵や魔術師も一緒に戦っていたよね」

「それだけじゃない。商人や一般市民もいるんだ。自分の矢で倒した魔獣は本人の所有権が認められてるから」

 それは太っ腹ね。

 今の王都では税金も値上がり、市民の不満もたまっていると聞く。上に立つものが無能だと、苦労するのは市民だ。早くあいつらをなんとかしないとね。


「見せたいものがある。このまま、城壁を歩いていこう」

 クレイドはなんの躊躇いもなく私の手を取った。


 街では迷子にならないためで、今差し出されている手は、単にエスコート?


 クレイドも随分社交性がついてきたな。

 初めて会った時はエスコートどころか名前さえ名乗らなかったのに。




「ほら、見て」

 クレイドは夕陽が沈む山脈を指した。


「うわぁ。綺麗」

 雪山がピンク色に染まっている。

 どうして夕日がピンクなのかわからなかったけれど、すごく神々しい。


「あそこに金竜がいる」

「不思議よね」

「うん」

 金竜はもともと太陽の支配者と言われ、黄金に輝く場所に住んでいると噂されている。

 南の島とかにいそうなのに、なんで夏でも山頂に雪が残るほどの寒い場所に住んでいるのか?


「本当は僕と金竜の契約を手伝いに来てくれたんだろう?」

 やっぱりバレていたか……。


 クレイドをバーンズ領に送り出した時、何年でも待つから王都のことは気にせずじっくり腕を磨いてから金竜を探せばいい。とか言ってたんだけど、状況が変わった。


「クレイドには早く金竜と契約して王都に戻ってきてほしいの」

「王都で流行っている伝染病と関係がある?」

「陛下は平民を見捨てて対策を打たないし、貴族の多くが薬草を買い占めて自領に引きこもっている」

 本来なら、伝染病は地方の貧民街で流行っていたはずなのに、王妃が水路の整備や福祉の予算を使い込んでいるせいで、王都の環境整備が極端に遅れていた。

 公爵家でも薬草を手配し配布しているものの、まだまだ数は足りていない。


「そうか」と言ったきり、クレイドは俯いてしまった。

 金竜と契約するとは魔力を覚醒させるといことだ。そんなクレイドが王都に戻れば、否応なく世継ぎ争いに巻き込まれてしまう。


「今の中央貴族は平民のことより、第一王子のサージェ様と第二王子ジョージ様のどちらが皇太子になるかしか関心がなくて。押されていたサージェ様も伝染病のおかげで巻き返してる」

「意外だな。あいつが平民を支援しているのか?」

「まさか、そんなことするわけないでしょ。フェリシアが貴族しか治療しないと公言しているから王族も貴族もサージェ様についてるの」

 本当にクズの集まりだ。

 フェリシアに至ってはほとんど治癒の力もないのに大きな顔をしている。


「王妃様一派の犯罪の証拠はあらかた立証できるまで漕ぎ着けた。お父様も兄様も機会をみて一掃する気でいる。そのあとはクレイドを押すことにしたみたい」

 アルデンヌ公爵家は長い間中立の立場をとってきたが、今の状態を鑑みてクレイドを皇太子にすることに決めた。


 クレイドがゴクリと息を呑み拳を固く握りしめる。


「クレイド、ここまではお父様たちの描いたシナリオ。ここからは私のお誘い」

 キツく手を握り返して、私は内緒話をするようにクレイドの耳元で囁いた。


「私と一緒に逃げない?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る