第53話 黄金の花

「逃げる?」

「うーん。逃げるっていうより駆け落ち?」

「駆け落ち! 俺カイルに殺されるんじゃない?」

「そうね。じゃあ冒険。私、世界一周が夢だったのよ」

 前世でだけど。


「ローズと冒険の旅か……魅力的な誘いだな」

「そう、難しく考えることはないわ。誰かの思う通りに生きることはないって意味だから。クレイドのやりたいことをやればいいし、居たいとこにいればいい」

 進む道なんて無限にある。


「でも、民はこのまま苦しみつづかるのか?」

 絞り出すようにクレイドは眉を顰めた。


 歴史なんて繰り返すしかない。

「愚かな指導者がいれば国は衰退して最後はどこかの国に吸収される。あるいは革命運動が起きるか。いっとき国は荒れるかもしれないけどラテラの人間は立ち直りも早いわ。一番不幸なのが、能力のないものが次の王になることよ」

 それをわかっていないものに、国を治める資格は無いからね。


「俺は……まだ自分がどうしたいかわからない。でも逃げたくない」

 なんだ、もうちゃんと覚悟はついているんじゃない。


「じゃあ、やっぱり金竜を攻略しないとね」

「そうなんだけど、情報が少なすぎてやっと牛にたかるハエみたいな扱いなんだ」

「それって、全く相手にされてないってことじゃない」

「でも、話は聞いてくれているような気がする」

「どんな話?」

「まあ、おおかた訓練の愚痴だっだったり、ローズが手紙に書いてくれたこととか?」

「なんで私の手紙の内容なんか話題にしてるの?」

「なんでって……」

 クレイドは答えにくそうに、チラリと私を見た。

 もしかして私しか友達がいないの?


「いいわ。あとはどんな話をしてるの?」

「そうだな。授業の内容かな。歴史とか外国の話……あ、これにはちょと興味がありそうだったな」

「具体的にどんなこと?」

「ビアトリア王国の周辺でもドラゴンの伝説が多いって話だ」

「ビアトリアとえいば海の向こうね。温暖だったと思うけど黄金の国とまでは言えないような」

「うん、もしかしてと思ったけどそこの龍は黒色で赤い目をしているらしい」

「ふーん。他には?」

「サンライという国にも竜がいたそうだ」

「聞いたことない国ね」

「ああ、もう何百年も前に消えた島国らしけど、文献がほとんど残っていないんだ。怪しいだろ?」

 うーん。確かに怪しいけどおとぎ話の域を出ていない。


「反応はあったの?」

「これと言って……いつものように目を閉じていた」

 いつものように……って。それってただ単に寝てるだけなんじゃないでしょうね!

 といつめたいが、クレイドはどうやら真剣に話しているようなので、とりあえずもう少し話を聞くことにする。


「ちょっと聞くけど黒竜の話をした時はどんな反応だったの?」

「あの時は一度目を開けると、尻尾と振ったんだ。もっと続きをはなせって感じで」

 絶対それ違うと思う。



「話を戻すけどサンライの竜の話ってどんなの?」

「サンライは竜の住む島だったんだけど、噴火でほとんどの竜は島ごと沈んでしまうんだ。生き残った竜は島に咲いていた黄金の花が生息する場所に住んでいるんだって」

 黄金の花……。


「それだわ!」

「どれ?」

「バーンズ領には、4年に一度だけ咲く花があるのよ。見た目は彼岸花みたいなんだけど、確か黄色で山裾に群生しているの。昔、商人にもらったことがあるわ。とても珍しい花なんだけど根に毒があるので流通はしていないって話だった」

「じゃあ、金竜がバーンズ領にいるのもその花があるから」

「多分ね」

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