第54話 金竜花
「残念だけど、薬師の温室でも今は
久しぶりに再会したフローズン卿が書類を確認してくれる。
金竜花は根に毒を持つので一般での栽培は禁止されており、一部の薬師に栽培許可を出しているそうだ。
そのおかけで一軒一軒探し回る手間ははぶけたけど、別の手を考えなくちゃならない。
「そうですか」
そう上手く咲いているわけないよね。
「竜金花で何をするつもりだい?」
「ご機嫌取りに持って行こうと思って」
「ご機嫌取り?」
「はい、この花は金竜の住んでいた島で咲いていたそうです」
「へー。それなら記録石じゃダメだろうか?」
フローズン卿は一度部屋から出て行くと、藍色に輝く記録石を持って来ると机の上で映像を映し出してくれる。
「綺麗ね」
映像は竜金花が一面咲き、まるで黄金に輝く小麦畑のように美しかった。
現代でいえばポログラフィーみたいなものだろうか。
でも、確かに美しいがこれではご機嫌取りには使えそうもない。
どんなに綺麗だとしても、竜目線から見たら豆粒と同じで何が映っているのさえわからないだろう。
「仕方ないわね。私が力を貸すわ」
✳︎
「これはわしのおやつじゃ!」
「何を意地汚いことを!」
「わしがおることを承知でノコノコ顔を出しやがって」
「このおいぼれが! ここには妾の方が先にいたではないか!」
金竜は翼をバタバタと動かしていちごを追い払うと、ホールごとケーキを飲み込んだ。
「それは、わしが一番大好物のチョコレートケーキ!」
「ふん、のろまなお前が悪いのだ」
「なんだと、この引きこもり竜のくせに」
「何とでも言うがよい。早いもの勝ちだ」
今度はクッキーの皿を口に放り込むと、どうやったのかそのままゴクンと飲み込んだ。
!
「ローズ、あやつを追い出すのじゃ!」
いちごが私の頭に飛んできて尻尾で顔をペシペシ叩く。
重いんだけど。
「あー、それはわしのいちごじゃ!」
そう叫んだ時には、時すでに遅し。
山盛りのいちごは全て金竜の胃袋の中に流し込まれていた。
「クソ、クソ、クソ! 絶対に許さん!」
いちごは頭の上で地団駄を踏む。
勘弁して、痛いから。
いちごは文句を言う割に、かかってはいかない。いちごも相当強いはずなんだけど。
犬猿の仲だと言っていたが、口の達者な金竜に押されっぱなしのような気がする。
「全部、あの小僧が悪いのじゃ! さっさとこいつと契約させるのじゃ」
「まあ、もうちょっと待ってあげてよ。素敵な名前を考えるらしいから」
「メロンでもスイカでもいいじゃろ」
いちごが適当に叫んでいるが、それは流石に金竜の名前としては相応しくない気がする。
3日前、ついにクレイドが金竜を連れて帰ってきた。
金竜といっても、鷲くらいの手乗り竜サイズだ。
「契約できたのね」
「いや、それが……」
小さくなった金竜が頭の上を飛び回る中、クレイドが言葉に詰まる。
「契約できていないの?」
「当たり前だ。妾にあんな平凡な名前をつけようとするなんて、契約者として失格だ」
クレイドがため息をつき「すみません」と小声で誤った。
なるほど、なかなか強烈なキャラのようだ。
でも、契約してくれないのに、なんでクレイドと一緒にいるんだろう。
「まだ、生まれたてのようだから。しばらく待ってやることにした。寛大な妾に感謝するのだぞ」
生まれたてって、クレイドのこと?
あれでもクレイドは15にはなるはずだけど。金竜にしたら生まれたてになるのね。
「ご配慮に感謝いたします」
クレイドが泣きそうな声で返事をした。
それからと言うもの、クレイドは必死に名前を考えているが、どれも金竜に却下されている。
これはなかなか決まりそうもないわね。
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