第4話 断罪にハプニングはつきもの *
「そこで何をしている」
突然後ろから咎めるよに声をかけられる。
これから断罪のクライマックスだというのに誰だ邪魔するのは!
イライラと振り返ればそこにはショタ担当の公爵令息カイルが眉間に皺を寄せ立っていた。
「お、お兄様!」
私は叫んでしまってから、慌てて口を両手で塞いだ。今見つかってつまみ出されるのは非常にまずい。
「いつの間にここに?」
ついさっきまで殿下の横に取り巻き達と並んでたじゃない。
「それは僕が聞きたいよ。今日は大人しく家にいるように言ってあっただろ。どうやって王宮の庭に入り込んだんだい?」
「そんなの秘密に決まっているでしょ」
カイル兄様は怒っているのだろうけど、ゆるふわの赤毛に夕日みたいにキラキラ輝く瞳で言われてもちっとも怖くない。さすがショタ担当、怒った顔さえ可愛らしい。
最近急に背が伸びたらしいけど、これで15歳なんて世の中間違っている。
あ、そんなこと感心している場合ではない。なんとかごまかさなければ。
「お兄様、これからエレノア様が断罪される大事なシーンなんですよ。さっさと戻って国外追放にしてきてください」
なんたってそのためにカイル兄様がヒロインに攻略されるのを阻止してきたんだからしっかりしてもらわなくては。
「なんで僕がそんなこと。エレノアがどうなろうと知ったことじゃない。それよりローズがここで見つかる方がよっぽど心配だ」
ショタのくせに妹思いなのは私の日頃の努力のたまものだ。
ちょっと拗ねたように頬を膨らませ、視線をそらせる姿は萌死にしそうなほど尊い。
いや、兄様BLのヒロインじゃないんだから可愛すぎるにもほどがある。
「お兄様、私は大丈夫です。エレノア様を助けてくれるって約束したでしょう。このままでは投獄、ギロチン、お家お取り潰しです。同じ公爵家として不当な処罰は見過ごせません」
「投獄、ギロチンって……たかが男爵令嬢をいじめたくらいで流石にそこまでしないでしょ。修道院あたりで解決じゃないの?」
修道院!
「それじゃダメ」
本編では殿下とヒロインちゃんが正式に婚約して悪役令嬢は修道院に入れられる。
続編では修道院に入れられたエレノア様は数年後私にそそのかされて闇の力を手に入れちゃう。
そう、何を隠そう私こそが続編の悪役令嬢なのだ。
最終的にエレノア様は投獄ギロチンなんだけど、その時にはすでに世界も破滅する寸前。
もちろん手を貸した私は一生幽閉され、アルデンヌ公爵家も没落の一途をだどる。
そんな未来は断固阻止。
金持ちお嬢様転生で贅沢三昧、推し活し放題生活を目指すんだから。
「修道院ではこの国が戦争で血の海です。私もお兄様も公爵家の権力を謳歌して
私は1つ年上だというのに同じくらいの背で華奢な兄様の腕を掴んでブンブンと揺さぶった。
「わかった、わかったからそんなに力入れて腕を掴まないでくれよ」
「あ、ごめんなさい。つい力が入っちゃった」
興奮すると、魔力を押さえるのを忘れてしまう。気を付けなくちゃ。
「エレノア、まだしらを切るか! 貴様が学園でフェリシアにしてきた数々のいじめを許すことはできない。当然私との婚約は破棄し、公爵家からは除籍、修道院送りに処す」
殿下が天下でも取った時のように声高々に宣言する。
ゲッ。もう言っちゃった。
「お兄様、早く。修道院行きを阻止してきて!」
私は慌てて兄様の背中を押して物陰から会場に戻す。
「えー無理だよそんなの」
「大丈夫、この前フェリシア様が市井で賊に襲われたのもエレノア様の仕業だって言ってたでしょ。ほら、ぐずぐずしない」
深々と溜息を吐きながらも、「ここでじっとしているように」と念を押し仕方なさそうに殿下の元に戻っていく。
「頑張ってショタ様」
私は胸の前で両手をグーにして、ちょっと膝を折って兄様を送り出した。
「ショタ様ってあの腹黒のことか?」
またもや後ろから声を掛けられ、私は頭を抱え込みたくなるのを我慢してそっと振り返った。
もう、次から次へと一番の見せ場を邪魔しないでよ!
振り返るとそこにはキラキラの生き物がいた。
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