第25話 ヒロインちゃんと遭遇
「うわぁぁぁぁ」
こりゃ凄い。
うちのテントも、屋敷の部屋と変わらず豪華だけど流石王族のテント、天井からシャンデリアがぶら下がっているし、壁には絵画が幾つもかけられている。
テントにいるこれ?
「カイルに妹がいるとは聞いていたが、そっくりだな」
優雅にお茶を飲みながら、サージェ様が興味深そうにこちらを見ている。
どう見ても狩用の服装ではないけど、お兄様の言う通り本当に狩には参加しないようだ。
なにしに来てんのこの人?
「お目にかかれて光栄です。ローズ・アルデンヌです。本日は兄の本を取りにまいりました」
「ああ、サージェだ。その本だが執務室に忘れてきた。今、取りに行かせたから後でそちらに届けよう」
忘れたんかーい。と突っ込みを入れたかったが、まあこちらとしても招き入れてもらえたのでよしとする。
それにしても、こんなに近くで王子様とヒロインちゃんを見るのは初めてだ。
推しを撤回したけれど、それとは関係なく綺麗なものは目の保養だ。
人間的に問題有りでも、こんな近くにいたら翻弄される気持ちもわかる。
ポーっと見つめていると、ヒロインちゃんがおかしそうに私の頬っぺたをつついて来た。
「ウフフ。そんなに見つめられたら照れます。私の顔に何かついていますか?」
いやいやいや。そんなものついていないの知ってて聞いてますよね。
これだから、自分が美人だって知っている女は……と思ったが期待通りの答えを返してあげる。
「すみません。とてもお綺麗で見とれてしまいました」自分でもポッと頬が赤くなるのを感じた。
いや、ほんと。正直すさまじいかわいさです。
あなたに、上目遣いで見つめられたら、どんな男でもイチコロなのが納得です。
だって、ひとみにキラキラ星が光ってるよこの人。
まつげ長いし。肌はつるつるで真っ白だし。
この世界でも珍しい「ピンクの髪にはぜひさわってみたいです」思わず心のつぶやきが出てしまい、私は慌てて両手で口を押えた。
「あ……」
「いいわよ。どうぞ」
フェリシアは、ソファーに腰を下ろすと私を手招きした。
そっと、その髪にふれると指の間をさらさらと滑り落ちていく。
「絹糸みたいで、綺麗です。フェリシア様ありがとうございます」
「あら、私のことを知っているの?」
「はい、いつも兄がとてもきれいな人だって話しております。今日お会いして本当に綺麗でびっくりしました」
「まあ、嬉しい。生徒会室にいるときはそんなこと一言も言ってくれないのよ。反抗期なのかしらね」
反抗期って言うより、妹大好きですから。
フェリシアはサージェに「カイルもこれくらい素直ならいい補佐官になってくれるのにね」と同意を求めた。
「あいつは三つも年下だが言いなりになるタイプじゃない……それに公爵家の跡取りだし賢すぎるのは手に負えん」
そういう所なんですよ。サージェ様が兄様に絶対にかなわないところは。いくら私が子供に見えても、本心を言ってしまっては駄目です。
「それにしても、あなたアルデンヌ公爵令嬢よね。全然悪役令嬢っぽくないわ」
「え? 悪役令嬢?」
その言葉に私も眉を寄せてしまう。
「ああ、あなたが悪いんじゃないのよ。まあ、言ってもわからないでしょうけど、ゲームでの話だから」
「ゲーム?」
私は不安げに首をかしげて見せた。
これはいったいどういう事?
悪役令嬢という言葉が出た時点で、彼女は前世もちだということは確定だけど。
ゲームって?
「現実の世界じゃなくて、そうね。予知みたいなものよ」
「フェリシア様は予知がお出来になるのですか? その予知で私は悪い令嬢になってしまうのですね」
うるうると、今にも泣きそう、という感じでフェリシアにしがみつく。
「私、悪い人間にはなりたくありません。どうか助けてください」
目をギュッとつぶりお祈りするように指を組んですがる。
「いいわ。助けてあげる」
フェリシアは私の頭を撫でて、いいことを思いついたという笑みでサージェ様に目配せした。
「ほんとですか! やっぱりフェリシア様は聖女なんですね」
「それもカイルから聞いたの?」
「はい」
「それじゃあ、いい。この先あなたにもしも第二王子と第三王子から婚約の申し込みがあっても、絶対に断りなさい」
フェリシアは人差し指を私の目の前に突き立てて、真剣な面持ちで説明した。
「彼らと結婚すれば、あなたは間違いなく闇に落ちるわ」
そう高らかに宣言する。
ああ、なんて単細胞なのかしら。
子供の一存で、王家と公爵家の婚約話が無しになるはずないじゃない。
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