第27話 ヒロインちゃんを出し抜きましょう
クレイドのテントに行く傍ら私はヒロインちゃんの言葉を一つ一つ思い返してみた。
「悪役令嬢が転生してるんだからヒロインちゃんが転生しているのも不思議じゃないよね」
転生者同士、協力し合うってのも有りだけど彼女とは無理だ。
気になったのは、彼女の漏らした「ゲーム」という言葉。
すっかりこの世界は小説の方だと思い込んでいたけど、ゲームの世界だとすればシナリオとちょこちょこ違う箇所があるのも納得である。
その場合、問題が……。
私はゲームをしていない。
「死神め。今度の転生はご褒美転生だって言ってたのに」
まあ、いい。
おバカなヒロインちゃんのおかげで、この世界が小説ではなくゲームの世界かもという可能性に気づけたし。
問題は小説ではサージェ様も王妃様も断罪されて続編に続いたけれど、ゲームの場合は色々なルートが用意されているので確かではない。
じゃなければ、ヒロインちゃんがあんなに余裕をかましているわけないし。
回避ルートを知っているに違いない。
「うーん」
「お嬢様、何か問題でも?」
戻っていたロダンが心配そうに振り向く。
「いいえ、問題ないわ」
どちらでもサージェ様と王妃の罪を暴く準備を整えている。
いくらヒロインちゃんが転生者でも、チートな私が負けるわけないし。
それでも、聖女覚醒の邪魔はしたい。
小説では彼女の覚醒は学園祭の夜に、カラスに襲われる聖獣を助け、名前をあたえ契約する。
それがゲームでは、狩りの最中に出会うのね。しかも、フローズン卿が隠しキャラなうえに、何かしら関係してくる。
せっかく本人から教えてもらったんだから、ここはぜひ邪魔をさせてもらわなくっちゃ。
その前にクレイドね。
「ロダン、お母様にないしょで馬と弓の用意を」
「ローズ様!」
悲鳴に近い声でロダンは走り出す私のあとを追いかけてきた。
✳︎
クレイドのテントはサージェ殿下の本当に後ろに位置し、半分森に隠れ湖などまったく見えなかった。しかも、王族とは思えないほど使い古されたテントにかろうじて一人の護衛がついていた。
見るからにひょろっとした弱っちい奴である。
「アルデンヌ家のローズよ。殿下に挨拶に伺いました」
護衛は頷くとテントの入り口をめくってくれた。
え?
入っていいか聞いてこなくていいの?
あまりの適当な護衛に呆れたが、時間がもったいないのでそのまま中へ入った。
「ローズ会いたかった」
クレイドは私に気がつくと目をキラキラさせて私に抱きついてきた。
うわぁぁぁ。推しに抱きしめられている。
どうしたのいったい?
「あんな別れた方をしたから、もう僕のことは忘れてしまったのかと思った」
ああ、そういえばお兄様がずいぶん酷いことを言って別れたっけ。
それから連絡手段もなくて忙しくて今日まで会えなかった。
「心配させてごめんね」
「いいや、いいんだ。今日もこうして狐狩りに来れたのはきっと公爵家からの後押しのおかげだから」
「お兄様からお父様に頼んでくれたのよ。婚約は反対だけどクレイドが覚醒するのには力を貸してくれるそうです」
「そうか、残念だけど公爵に認められるような男になるよ」
「ええ、覚醒すれば権力は思いのままですからね。私にも甘い汁をいっぱいお願いしますね」
「甘い汁じゃなくて、甘い言葉をいっぱい贈るよ」
「期待してます。それより、想像以上にボロいテントですね」
サージェのところはシャンデリアまであったのに、クレイドのテントはテーブルと椅子しかない。しかも灯りはランプ数個で暖房もない。
「こんなところにいたら風邪をひいちゃう。森に行った後はうちのテントに行きましょう」
「森に?」
「ええ、これからヒロインちゃんを出し抜きに森へ行きます」
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