第49話 タッセル 2


「実はこれには私の加護を付けてあるの」

「ローズの加護?」

「この吉祥結びは幸運や健康を祈る縁起のいい結び方なんだけど、結びながら一つ一つに毒を中和したり傷を塞ぐ魔法をかけてあるから」

 さらに内緒でいちごの加護も付け足しておいた。

 いちごの加護といえば、2分間だけ時間を止めることができる。めっちゃチートなやつだ。

 2分あれば大抵の攻撃は防げる。


「これを見たお母様が兄様と父様にも作ってっていうから色違いで作ったら、意外に評判が良くって」

 初めは健康や安全祈願だったけど、こういうものは女子に人気だと思って恋愛のお守りとして知り合いの商会で売り出した。

 もちろん商売用のタッセルには本物の加護は付けていないけど。


「跳ね橋うんねんも私がそれらしいように流した噂。簡単じゃないほうが燃えるでしょ?」

「じゃあ、これをローズからもらったのは僕で3人目?」

「うーん。フローズン卿にもあげたし、うちの諜報部にもあげたけど」

「そうなんだ……」

 ズーン。と音がしそうなほど頭を垂れ下げて、クレイドが手渡したラッセルを見つめる。

 そんなに一番初めにもらいたかったのかな?


「クレイドのラッセルが一番たくさんの加護を詰め込んでおいたから」

 何たって、毒殺される運命だ。私の番人の加護をつけまくっても足りないくらいなんだから。


「ありがとう。大切に使うよ……うん、今はこれで十分だ。ここからが勝負だからね」

「そうよ。頑張って金竜と契約しなくちゃ」

 やっぱり、たくさん加護を付けておいてよかった。


「ローズ。まだ少し歩ける?」

「ええ、もちろん」

「じゃあ、少し街を見てから城に行こう」

「うん」

「じゃあ、はぐれないように手を繋ぐね」

 え?

 もう子供じゃないんだけど。

 そう思ったが、クレイドの手のひらがあまりにも大きくてびっくりして言えなかった。


 剣だこなのか、すごくゴツゴツしている。

 きっと、すごく苦労したんだろうな。

 久しぶりの友人との再会ではしゃいでるのかもね。

 ちょっと付き合ってやるか。

 私は妙にドキドキする心臓にとまどいながら、クレイドと手を繋いで街を歩いた。



 ✳︎


 バーンズ領は想像よりもずっと華やかな街だった。

 王都での危険で野蛮な街という噂が嘘のように城下には花が溢れており、市場には見たことのない食材が山のように積まれ、人々の笑顔はおおらかだった。


「すごい活気ね」

「ここは二本の街道が通ってるし、スクワッズ山脈の鉱山問題もフローズン卿が解決したから隣国との貿易も盛んなんだ」

 街道の一本はアルデンヌ公爵領につながっていて、実はいくつか共同の事業をしていることは知っていた。兄様は当様と何度か訪問していたけど、私が来たのは初めたった。


「何度も魔獣に襲われてるって聞いていたから、もっと荒れているのかと思ったわ」

「僕がいる時にも一度魔獣の残党が空から襲ってきたよ」

「そうなの?」

「うん、魔獣の襲来は初めて見たから、これは酷いことになるぞと想像したけど、あっという間に城壁に兵士が現れて討伐が行われてくし、漏れた野獣をなんと住人総出で倒したんだ」

「へー、結束が強いのね」

 路地裏にも浮浪児が一人もいないし、本当にバーンズ領は素敵な所みたい。

 何より、クレイドがこんなに楽しそうに話しているなんて……。

 王宮では綺麗すぎる顔のせいでちょっと冷たく捻くれた感じを受けたけど、今は本当にくったくなく笑う顔が、可愛い。

 あら、今日何度目かの「可愛い」かしら……王宮を出て正解ね。


 ただ、ずっとこの領地にいるわけにはいかない。暗殺者は今も来てるみたいだし、クレイドが幸せに暮らしているのはもう報告済みだろうから、いつ強引に呼び戻されるかわからない。


 やっぱり、一刻も早く金竜と契約してもらうしかないわ。


「ローズ、あれからフェリシア嬢は大丈夫?」

「ふふふ、あれからフェリシアは表面上は大人しくしているわ。でも、また悪巧みを諦めてないみたいよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る