第2話 断罪される悪役令嬢が登場しました
「殿下、手違いで少々到着が遅れてしまい申し訳ありませんでした」
エレノア様はすっと殿下の前に左手を差し出した。ふつう婚約者ならここで手をとる場面だが、今の殿下の腕の中にはヒロインちゃんがいるので、もちろん無視である。
そもそもエレノア様の到着が遅れたのも、屋敷で殿下が迎えに来るのを待っていたからのはず。
うーん、ちょっとひどいよね。
クライマックスにふさわしく、豪華な会場に緊張感が漂う。
ひそひそと集まった貴族達の陰口が聞こえるが、そんなことお構いなしにエレノア様は堂々と胸を張った。
「そこのお前、平民が殿下に近づくなと何度言えばわかるの」
エレノア様は
気持ちはわかるよ。
ヒロインちゃんの可愛さを認めたくない気持ちが痛いほど。
でもそれは悪手でしかない。誰しもが子猫を見るように愛でているヒロインちゃんにそんなキツく言えば、反感を買うのは当然。
ほら、私以外、皆が眉を顰めてる。
平民といっても今は聖女候補であり男爵家の養女になっている。何より殿下のお気に入り。表立って批判する者は誰もいない。
もしも、私がエレノア様と同じ歳に生まれ、とり巻きになっていたなら「空気を読まなくていいのはヒロインだけですよ」と教えてあげたのに。
まあ現実は私は14歳で、エレノア様と親しかったとしても、計画のためには味方になることはできないんだけど。
ごめんねエレノア様。
エレノア様には何の恨みもないけど、ストーリーをちょっと変更して国外追放になってもらいます。
大丈夫。暗殺されないし、娼館にも売られない。お兄様がうまくやれば隣国で悠々自適の人生だから。
私はごくりとつばを飲み込み、物陰からエレノア様が思惑通り、断罪されることを祈った。
「これはこれはエレノア、今年のお題の答えは赤薔薇だったはずだが公爵家ともあろう者が調査できなかったのか?」
殿下はあざけりを含んだ口調でエレノア様にちらりと視線を向けると、見せつけるようにフェリシア様の腰を自分に引き寄せた。
なんだか攻略対象なのに悪役に見えるのはなぜ?
「お題? ああ、殿下が茶会の朝、王妃様に薔薇を贈り、皆がその色を当てるという単純な余興のことですわね」
「薔薇の乙女に花冠を」という題名の通り、多くのイベントで薔薇がキーワードになるのだが、そのなかでも春バラ茶会では庭園の薔薇を総入れ替えし、国内外から珍しい薔薇を集め庭園を造り変えるという一大プロジェクトだ。
しかも貴族たちから贈られた薔薇は植えられた位置により王家への貢献度を表し、王妃宮のプライベート庭園に植えられれば王家から最高の信頼を得たとされる。
「もちろんバゼロ公爵家からも隣国からの珍しい赤薔薇をお贈りしましてよ。今年は王妃様のお庭のどのあたりに置いていただいたのかしら」
ここ数年、第一王子の婚約者であるエレノア様のご実家は当然この会場ではなく王妃宮に植えられている。
「あ、今年は誰にも我が家が赤い薔薇を贈ったことは言っておりませんわよ」
エレノア様は胸を張ったが、それを聞いた貴族令息は苦笑いをした。
例年王子が母親である王妃に送る薔薇は王妃宮に植えられたものだ。必然に出入りできるものが限られているので、最高の薔薇の色を当てるといことは貴族子息にとって、政治的情勢を読む試練であり、優れた情報源を持つ証でもあった。
婚約者の家が贈る薔薇は殿下が最高の薔薇に選ぶ確率が高いだろうと、毎年チェックされていたのだが、今年はその必要がないと思われていることにエレノア様は気づいてなさそうだ。
「残念だが、公爵家からの薔薇はそこにある」
殿下はそういうと沢山のテーブルの一番端、会場の入り口付近のちょうど私が隠れている方を指さした。
ゲッ、まじ!
殿下の言葉で、皆一斉にこちらを振り返る。
見つかったらまずい!
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