第41話沙織ちゃんのガードを固めよう

「明さぁんっつつつーーー」


 古美術商で仕事をしていると、女の子に泣きつかれた。

 仕事仲間の沙織ちゃんである。


 清楚で大人びていて、気丈な子なのだが…呪いを受けやすい子でもある。


「どうしたの?」


「以前にいただいたお札が、ここに来る途中で急に真っ黒に。…なんですか、これ?怖すぎるんですけどー」


 あー、蛇の呪いの時に渡したお札ね。あれ、強力な奴で持続力も高いのだけど…。


 沙織ちゃんが差し出したお札。受け取って見てみると、確かに真っ黒である。


(こんなになるほど呪いを溜め込んだかー)


 まぁ、だんだん黒くなるのではなく、限界が来たら急に真っ黒になる仕様にしていたのは申し訳なかった。そりゃ、びっくりしただろう。


 だけど…呪いを受けすぎである。普通の人は、一生かけてもこのお札を真っ黒にすることはできないだろう。まぁ、半分くらいは、今は亡き小兄の…生前の仕業なのだけど。


 この子、超モテるらしく、周囲のやっかみも受けやすいらしい。その上、葵祭の斎王代にも選ばれてるからね。

 あと、精霊や呪物に好かれやすい気質の持ち主でもあるらしい。


 いや…性格が悪いとか、そういうことではないんだよ。むしろ、性格むっちゃいいからね。世話好きで、困ってる子がいたら、うちにどんどん連れて来てくれるし。それで助けられた子も多い。品行方正で裏表もなく、誰にでも公平に接する委員長タイプというか。

 それでいて茶目っ気もあるし、芸事や家事、勉強もできて、容姿もずば抜けて素晴らしい。この子を呪う奴ら、なんなの?


「3ヶ月足らずの間に、よくこれだけ呪いを溜め込めたね」

 ちょっと、感心してしまった。


 沙織ちゃんと縁ができたのも、〝クラスメイトに呪われてるのではないか?〟と沙織ちゃんが真っ青な顔で店に相談に来たのがきっかけだった。呪われていたと言うか、結構な数の生霊に取り憑かれていたのだけど。


「感心されても、困ります〜」


 沙織ちゃんは涙目で俺を睨んだ。


(可愛すぎる)


 まぁ、問題点はそれに尽きるだろう。可愛いすぎるというか綺麗すぎるというか。〝出る杭は、打たれる〟のだ。打たれるほうは、たまったものではあるまい。



「それ、ちょっとした式神にできるのではないか?」

 唐突にこう言ったのは、俺の式神たる〝りほ〟である。


「式神…ですか?」

 沙織ちゃんがきょとんとした感じで聞いた。


「正確にいうと…式神の卵じゃな」


 式神の卵かー


「まー、それくらいの呪力はたまっているね。…沙織ちゃん、式神を育ててみる気はない?」


「式神を育てるですか?」


「そ。卵をあたためて雛をかえす感じだよ。何が生まれるかは、沙織ちゃん次第だけどね。その雛は、親である沙織ちゃんを四六時中、徹底的に守ってくれるよ。とても忠実に。健気にね。そして、沙織ちゃんを呪いから守るたびに強く、大きく成長していく」


「親…私、母親になるんですかー?父親は?…もしかして、明さん…ですか?」

 顔を赤らめて恥ずかしげに言う沙織ちゃん。どことなく嬉しそうでもある。


「うん?確かにお札を卵にするのは俺だけど…。父親??」


「初めての共同作業ですねっ」


「…そうだね。何が生まれるか、楽しみだよ。お札を卵にする過程は、動画配信してもいい?」


「それは、ちょっと恥ずかしいですけど…いいですよ?」

 ますます顔を赤らめて、両手で顔を隠しながら手の隙間から、俺を見つめる沙織ちゃん←(/ _ ・\)チラッ


(可愛いすぎる)


 こうして、沙織ちゃんのお札を式神の卵にすることが決定した。というか…沙織ちゃん、呪いに好かれすぎっ。一体何が生まれるか、ちょっと怖いんですけど。


「子供の名前は、明さんが付けてくださいねっ」


「…うん」


 式神を自分の子供と思ったことはない。だけど、沙織ちゃんがとても楽しそうだから、まぁいいか。




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