第16話5対6のバトル
大嶽丸の分裂体。5体になったから一体の高さ6mとはならなかった。一体の大きさは2mほど。それだけ力が凝縮しているのだろう。
見た目もむさいおっさん赤鬼のそれから、若い細マッチョ赤鬼と化している。顔はイケメン…ではなく、結構普通。
「ふん、わらわの眷属もみせてやる!二尾・大ナメクジ。五尾・大蛇。六尾・大蛙!!後の2体は、わらわと鈴鹿で行けるか?」
ナメクジ、蛇、蛙って三すくみだっけ?
大きさはそれぞれ大嶽丸の分裂体と同じくらい。こいつらも力を凝縮しているのだろう。一体一体が大嶽丸の分裂体と同等の力を秘めていそうだ。
「ええ」
鈴さんが答えた。
「主は引き続き後方支援を頼むのじゃ」
「もう【蘇生】は使えないからな?」
「「了解」」
それぞれが散開して大嶽丸の分裂体のところに行った。
♠️【大ナメクジ】対【分裂体1】
「我の相手は大ナメクジか…。はぁっつつつ」
気合いとともに大ナメクジに拳が何発も撃ち込まれる。炎を伴った連打。
しかし…大ナメクジの湿った粘体には炎が効かなかった。
軟体のため殴っても効果がない。
「むうっつつつ…なら、雷じゃ」
ドッゴーン!
ナメクジは四散した。
♠️【大蛇】対【分裂体2】
「シャーっつつつ!」
「我の相手は大蛇か。細切れにして蛇鍋にでもしてくれる」
分裂体2は、手刀で風の刃を放つ。
大蛇は身をくねらせてかわす。かわす。かわす。
そうしているうちに彼我の距離が詰まった。
「捕まえた!」
大蛇は分裂体2に巻きつき、首元に牙をつきたてた。
そして、巻きついて締め上げていく。
「力勝負で我に勝つつもりか!」
大蛇対分裂体2は力勝負のていを成した。
力はしばらく拮抗していたようだったが、分裂体2が大蛇を引きちぎった。
♠️【大蛙】対【分裂体3】
「我の相手は蛙か…ガマガエルかな?相撲でもとるか?はっけよーい…のこった!」
シコをふんで、がっつり組んだ。
「むむむ…なかなかやるな。なら張り手じゃ」
分裂体4は距離をとってから張り手を繰り出した。
バシーン。
ヒットしたのは、蛙の舌。蛙の舌のほうが速くてリーチも長かったのだ。カウンター気味に決まった。
「むう痛い! 痛いわ」
ドカッ
蛙の舌で攻撃された分裂体3は、相撲と自分で言ったのを忘れて蹴りをだした。
それから、大嶽蛙を掴んで背面投げ。いわばプロレスのバックドロップの要領で投げた!
「ゲコッ!」
大蛙は、地面に頭から激突した。
♠️〝りほ〟対【分裂体4】
朱雀大路にて〝りほ〟と分裂体4が対峙している。それぞれの手には鞘に収められた日本刀。
分裂体4は、日本刀をすらりと抜いた。
「その刀はなんじゃ? 鬼の力に耐えられる刀を持っておったのか?」
「六道の当主に渡された刀じゃ。【童子切】とかいうておったぞ」
「ふーん」
刀に興味がなさそうな〝りほ〟
【童子切】とは、童子切安綱のことであろう。天照大神が源頼綱に「酒呑童子を斬れ」と授けた刀である。
鬼である酒呑童子を斬れる刀は鬼の力に耐えうる強靭さがあるだろう。国宝級の刀を六道の当主がなぜ持っているかはわからないが…盗難したのかもしれない。
まぁ、古美術商を手伝っている者として【童子切】のことをちゃんと解説しておくと… [作者注…※部は飛ばして下さって大丈夫です]
※※※ 刃長2尺6寸5分、反りハバキ元にて約一寸、横手にて約6分半、重ね(刀身の厚さ)2分。作り込みは鎬造り、庵棟。腰反り高く小切先。地金は小板目が肌立ちごころとなり、地沸が厚くつき、地斑まじり、地景しきりに入る。刃文は小乱れで、足よく入り、砂流し、金筋入り、匂口深く、小沸つく。帽子は小丸ごころに返り、掃き掛ける。なかごは生ぶ。先は粟尻。鑢目は切。目釘孔一つ。銘は「安綱」。制作は平安時代後期とされる ※※※
「じゃあ、刀で勝負といくか?」
「勝ったら、【顕明蓮】を返してもらおう。それは、もともと我の刀ぞ」
「わらわに勝ったら取り返すがよい。恋歌ひとつで騙し取られた刀をな」
「ぬかせ!」
一気に間合いを詰める2人。
すれ違いざま一合打ち合った。
キンッ
まずは、互いの刀の強度を確かめあったようだ。
「ふむ。【童子切】よい刀じゃ。【顕明連】と打ち合って刃こぼれひとつしておらぬ」
分裂体4は、刀身を見て満足げに呟いた。
「なら、存分に打ち合おうか? わらわも刀で遊ぶの久しぶりじゃし」
〝りほ〟は、ちゃんばらごっこを楽しむ小童のように言った。
「遊びではない! 膂力で狐が鬼に勝てるかな?」
「今度は力比べか? 面白い」
再び、刀を中段に構えて、激突する2体の妖。
今度は、鎬を削り合う形をとった。
ぎりぎりと〝りほ〟が押されている形だ。力勝負は分裂体4の方が体格もよく、優っているようだった。
♠️明&鈴対【分裂体5】
俺は鈴さんのサポートに回った。ここの力の差が大きそうだったからだ。
あんのじょう、鈴さんが一番苦戦している。
刀対素手の戦い。剣術3倍段とはよく言ったものだが…鈴さんの膂力では分裂体5が鬼気を凝縮して強化した肉体を切れないのだ。
俺も呪符で鈴さんの攻撃をサポートしたり、分裂体5を直接攻撃したりバフやデバフを撒いたりすることでやっと均衡を保っているのである。
「ふ。2人がかりこんなものか?」
「ここは均衡を保っていればいいさ。じきに〝りほ〟と眷属たちが来る」
「ほう? 他の戦いの様子がわかるのか?」
「式紙で戦況は把握している。続々とお前の分裂体を打ち破っているぞ?」
「面白い! 戦況報告を聞こう。一時停戦でどうじゃ? 我の分裂体かそなたの式神とその眷属か、どちらがより多く加勢にくるのか? 興味深い」
分裂体5は戦闘を停止した。
「ハァハァ。…いいだろう」
俺は式紙からの映像を見せることにした。
まず、【大ナメクジ】対【分裂体1】の画像。
炎による攻撃がきかなくて、雷による攻撃に切り替えた分裂体1。その攻撃によって四散したように見えた大ナメクジは咄嗟に分裂して雷をかわしたようだ。
無傷とはいかなかったようだが…。
そして無数に小さく分裂して大嶽丸の分裂体1に一斉に襲いかかっていく。
大嶽丸の分裂体1はナメクジをよく振り払っていたが…次から次へと分裂を繰り返すナメクジにやがて飲み込まれていった。
最後は、溶かされ食いつくされた。
「むぅ」
分裂体5はうめいた。
(大ナメクジ強えー)
お次は、【大蛇】対【分裂体2】。
分裂体2に引き裂かれたかにみえた大蛇。
その数瞬後…分裂体2が驚愕の表情を見せた。
分裂体2が引き裂いたのは、蛇の抜け殻だったのである。
大蛇得意の【抜け殻分身】といったところか?
実態は、さながら【土遁の術】の如く土の中に隠れていた。
(忍者みたいな奴!)
その後…先刻突き立てた牙から毒が回ったのか分裂体2が膝をついた。
大蛇は、改めて分裂体2に巻きついていき…
グシャバキ、グシャバキ、グシャ、グシャ、グシャグシャグシャ…と分裂体2の全身を締め砕いていった。
「ぐあっぁぁぁあっつつつーーー!」
それから「ゴクリ」と丸呑みしたのである。
3つ目は、【大蛙】対【分裂体3】。
分裂体3にバックドロップで頭から投げられた大蛙。
目を回してのびた!
「うおおっーつつつ」
分裂体3、勝利の雄叫びとガッツポーズ。
あ、転がったままの大蛙の腹を踏み抜いてとどめを刺してる。
まぁ、とどめを刺されたところで〝りほ〟の尻尾に戻るだけだけど。
(大蛙、負けとるやんけー!!)
「良し」
大嶽丸の分裂体5も小さくガッツポーズした。
4つ目。〝りほ〟対【分裂体4】
鎬の削り合いは〝りほ〟の負け。〝りほ〟は体勢をくずし数歩よろめきながら後退した。
そこに、分裂体4の鋭くて重いミドルキックが〝りほ〟のみぞおちにめりこむ。
「げほっ」
〝りほ〟は、身体をくの字に曲げて悶絶する。みぞおちに打撃を受けると一瞬、息ができなくなるのだ。
——いかん!斬られる!!
分裂体4が刀に業火をまとわせ、〝りほ〟にとどめの【袈裟斬り】を放とうとした刹那…
ぼこっ
分裂体4の顔が跳ね上がった!
どこから何で攻撃されたか分からない、驚愕の表情で身じろぎする分裂体4。
ぼこっ…ぼこっぼこっぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ…ぼこっ…ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ…ぼこっ
見えない何かの連打。
分裂体4は見るまにボコボコになっていく。その様は、まるでフックの連打の合間にアッパーやストレート、ボディブロウがまじるデンプシーロール!
「グハァ!」
回避やガードをしても、追撃したり、間隙を縫うように打撃が襲う。
ガードや体勢を崩し後退していく分裂体4。
「尻尾の連打。そして、とどめじゃ」
攻撃の正体は、6本の尻尾によるものだったらしい。
(尻尾を眷属化せずに殴るの手数がやばいな! いや、尻尾数?)
とどめの構えは大上段。そこから【顕明連】を豪快に振り下ろした。
打撃でボロボロ、ヨロヨロだった分裂体4はかろうじてサイドステップ気味にその身をかわす。
ざしゅっ!
飛び散る血飛沫。
驚くべきは、〝りほ〟の技量。大振りに勢いよく振り下ろした刀を地面に触れる寸前で、即座に切り返したのだ。
(秘剣【燕返し】だと?)
かわした相手を追尾するV字斬りのようになっているが、〝刀で遊ぶ〟と、のたまう奴の技ではない。
相手にかわされることを想定して次の攻撃にすかさずつなげる
分裂体4は身動きが取れずにもろにその剣戟をうけ両断された。
この切れ味は【真空刃の術】も併用しているだろう。相手が後ろに下がって避けても刀で防いでも真空の刃を飛ばし、相手を斬るのである。
不可避で必殺の技。
「勝った!」
〝りほ〟は、その場で分裂体4を食わずに虚空の穴をだしてしまい込んだ。
(保存食か?)
いや、わかってる。グルメ(?)な〝りほ〟の本体は、調理しないと食べないのだ。
♠️
結果…3勝1敗。
「帰ったぞ。主!…って、そなたら戦っておらぬではないか!!」
尻尾を9本に戻した〝りほ〟が帰ってきて呆れた。
「戦いを中断して、他の戦いをみてた。どれもいい勝負だったけど…大蛙、負けてんじゃん!」
「4戦したわらわとその眷属に対する言葉が、1敗への責め句じゃと?」
「あー、ごめん。お疲れ様でした」
「うむ。残り一戦じゃが…どうする?」
「もちろん〝りほ〟ちゃんにお任せです」
即答。
「はあっつつつ?」
式神に「はあっつつつ?」って言われる主、いる?
「大嶽丸の分裂体を2体も食って強くなったんだろ?俺にその強さを、見せてくれよ」
「ふむっ、そういうことなら」
得意そうなニコニコ笑顔の快諾。
——ちょろ! かわいい! 式神操縦術のHOWTO本書こうかな?
「…最後までやる気か?」
大嶽丸が静かに言った。大嶽丸も分裂体を一体、取り込んでいる。
「そのようじゃな。刀で勝負しよう。刀で」
〝りほ〟は、無邪気に言った。
(ちゃんばら、気にいっただろ)
「尻尾で殴るのは無しにしないか?」
「ふむ?」
「あれ、反則」
大嶽丸が言う。
死合に反則とかあるのか?
「そうか…よかろう。わらわもさっきより強くなっているし、手心を加えてやろう。尻尾は使わないでやる」
どれくらい強くなったか、試したいんだろ? 素直にそう言えって。
〝りほ〟は拾って持ってきていた【童子切】を大嶽丸に投げ返した。
♠️
〝りほ〟と大嶽丸が対峙する。
勝負は一瞬でつくだろう。それだけの緊張感が2体の間に漂っている。
両者ともに横半身で肩の横で斜めに刀を構える【八相の構え】。
緊張感が最大限に高まった、刹那…
どちらともなく打ち掛かった。
「「はぁっつつつ!!」」
先に間合いに入るのは、リーチが長い大嶽丸のはずだが…両者の刀は、〝りほ〟の間合いで同時に振り下ろされる。いわゆる【袈裟斬り】。
ガキッーーーン
1本の刀が半ばから折れて、くるくると飛んでいく。
肩口からばっさり斬られ、紅蓮華のように乱れ飛ぶ血飛沫。
今回は、おそらくどちらの刀にも【真空刃の術】が付与されていたようだが…敗者の術は打ち合いで術が打ち消されたらしい。勝敗は単純な膂力だけでなく術の威力によっても左右されたのだろう。
深手を負って、スローモーションの如く倒れていくのは………大嶽丸。
〝りほ〟はすかさず近づいて心臓というか核(?)を一差し。その後、首を落としてトドメを刺す。
(これ絶対、〝刀で遊ぶ〟とかじゃ無いでしょ)
〝死合〟のそれである。
ゴロリと無惨に転がった鬼の首がとてもシュール。
「「やったー」」
駆け寄る俺と鈴さん。
いや、よく見たら〝天下五剣〟の一振りで国宝級の刀が折れてるーっつつつー!
【顕明連】も刃こぼれしとるーっつつつ!
……。
【顕明連】は自己修復機能ありそうだけど…【童子切】はどうすんの??
刀の価値を一切考慮しない勝負をやりおって!妖って何?馬鹿なの??わざわざ力任せに折らなくても、相手の斬撃を華麗にいなして切り返す技とか、相手の斬撃を紙一重でかわして切る技とか、あるでしょ!
(知らない。 見てない。 俺のせいじゃねー!)
凱旋前に頭を抱える俺だった。
♠️
しばらく頭を抱えた後…
「えっと…【薬師如来回復呪】オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
いちかばちか真っ二つに折れた【童子切】を合わせて回復呪をかけてみる。
(生物以外も修復できるか?)
五芒星の眩い光がおこる。
……。
はい、元通り。
(よかったー💦)
♠️
「帰ったら、大嶽丸の肉で京風おでん作って❤️御神酒もいっぱいつけて❤️」
〝りほ〟は、かわいくおねだりする。
それ、鈴さんと紀香ちゃん的には共食いですよね?食べるかなー?
あと、鬼の肉って筋張って固そうだけど、
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