第33話兄弟喧嘩

「はぁはぁ」

 長兄は、息を切らす。


〝りほ〟とナーガは殴られすぎてぼろ雑巾のようになって地に伏せている。死んではいないが、虫の息だといって差し支えないだろう。



「インドラジットになった優越感は満たせたか?」


「なんか、虚しくなってきたわ。お前が自慢している九尾をズタボロにしたら、気がおさまる思っとったんやけど」

 長兄は、意外と不満げに言った。


「これからずっとその姿なんだけどな」

 人間をやめて、これからどうするつもりなのか。


「さすがはクソ親父。ろくなアドバイスをせん。今思えば、お前と戦わすためだけにワイをけしかけたんやで」


「俺と?」


「お前、才能は一級品やのに人を呪うことを嫌がるやろ?精霊や魔物を呪物として使い捨てるのも嫌うやろ?」


「ああ」


「気質が特殊で、精霊や魔物や陰陽術師からも愛されるしな。それが鈴鹿御前やその娘や晴子に愛される所以ゆえんや。田鶴屋の小娘も魔物か術師の才能があるんとちゃうか?まぁ、お前の仕事ぶりが客を喜ばした結果でもあるのやろうけど」


「沙織ちゃんに魔物の才能があるとは思いたくないな。術師としては、才能あるんじゃないか? とは思うけど。呪いを受けやすいし。感受性が高いんだろう。というか、俺と俺の周囲の人間にやけに詳しいじゃないか。俺を監視してたのか? 六道の出来そこないであるこの俺を」


「見張られてたの気づいてなかったんか?」


 これだから長兄の呪術、ステルス性が高くて厄介なんだ。晴子にかかっていた呪いもそうだった。


「監視とか、やめろよ。気持ち悪いな」


「家督争いの相手は気になるやん。じんをためらいなく殺したし、九尾のおかげで呪い返しも上手くなったやろ?」


 だから、家督争いの相手として俺を見直したってか?


 だが…。


「人を呪うことを生業なりわいにしたいとか、まったく思わないけどな」



「なんやかんやいって…お前は仕事の結果、人を笑顔にすることが好きやもんな。それがお前の母親の教えでもある」


「そうだ。〝持たざる者からは搾取するな〟。それが母の教えだった。本当にいい占い師は、本人に払える分の対価しか求めてはいけないと。そして、自分の力は人を幸せにするために使えと。…その教えのために〝儲けるためには何をしてもいい〟がモットーの六道の人間全てにいじめ抜かれたんだ。俺だけでなく母さんまでもなぁ!」



「ふん。呪術師として才能のある子供を産ますために土御門の末裔占い師を愛人にする親父が悪い。結果、表の才能に溢れているが、裏の才能がからっきしな子が生まれたのだから。まぁ、ワイらに親父が満足するほどの飛び抜けた才能がなかったのも原因やけどな。ワイらの母親から、それを責められなかったとでも思っとんのか?」


「それがどうした?」


「お前がワイらを恨んでいるように、ワイもお前を恨んでるって話や! 親父にもなにげに期待されおって!」


「親父が?」


「その話はいいわ。もう、結界壊してお前も殺すし」



「ちょま…その話は置かないでほしいんだけど…まぁいいや。第二ラウンドといくか。【薬師如来回復呪】オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ!」


 倒れている〝りほ〟とナーガを完全回復させた。


「得意の回復術か。式神を回復させたところでワイには敵わんやろ?」


「それは、どうかな? まぁ、陰陽力をギリギリまで〝りほ〟に吸われたので、これで陰陽力はほぼ空だけど…【韋駄天加速呪】オン・イダテイタモコテイタ・ソワカ」


 俺は、残りの陰陽力をほとんど使って韋駄天の呪も唱えた。






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