第22話ぼた餅とおはぎ

 さて、今度は紀香ちゃんがアシスタントとして沙織ちゃんの料理といけ花をセットしている。


 沙織ちゃんは、シャカシャカとお茶をたてている。その所作も美しい!


 花は、牡丹。お茶菓子は、ぼた餅。


 ——なるほど。そうきたか。


「これは、牡丹ですね。〝立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花〟女性の容姿や立ち居振る舞いの美しさを表現する言葉です。生薬の用い方の例えでもありますが。花言葉は…〝高貴〟〝壮麗〟〝風格ある振る舞い〟だったでしょうか?ぼた餅の由来になっている花でもあります。そして、〝ぼた餅〟は春のお彼岸の時の名称なのですよね。秋のお彼岸の時は、〝おはぎ〟と名称が変わります」

 俺が解説する。



「アドリブなのに、なんでそんなにすらすら予備知識や花言葉がでてくるんですか?〝ぼた餅〟と〝おはぎ〟の違いもその通りです」

 沙織ちゃんが苦笑する。



〝高貴、壮麗、風格ある振る舞い…沙織ちゃんにぴったり〟


〝特技が、いけ花とお茶、お菓子作りなの?ぼた餅も食べたい〟


〝お花のいけ方も壮麗。さすがは今年の斎王代。教養、高っ!〟



「ありがとうございます。では…あーん」

 ぼた餅を3分の1ほど和菓子楊枝で切って、俺の口元に運ぶ。


「あーん」


 もぐもぐ、ごくん。


「どうですか?」


「うん。甘さ控えめで…うまい!」


〝あまーい!〟


〝お砂糖吐きそう〟


〝俺にも『あーん』して〟



「いや、甘さ控えめですって」

〝お砂糖吐きそう〟はちょっと失礼なのではないか?


〝多分、そういう意味ではない〟


「お茶もどうぞ。あーん」


「あーん」

 沙織ちゃんがお抹茶の器を口元に持ってきたので一口すする。


 お抹茶をすするのに〝あーん〟という擬音が適切かどうかは定かではないが。一口分、ごくりと飲む。


 温度が絶妙。クリーミーでかすかな苦味も感じるが、口当たりもよく、大変、美味。

 ぼた餅で甘くなった口の中が爽やかに洗い流される。


「うまい。うますぎる。…ごめん、ちゃんと飲んでいい?これは、ちゃんと飲みたい」


 本物には、敬意を払わなくてはなるまい。


「どうぞ」

 沙織ちゃんはにっこり笑う。


「頂戴いたします」

 茶器を受け取って一礼。


 茶器を二手半ほど回す。


 茶は3口で飲み干す。


 飲み口は指で拭い、指はティシュで拭く(本当は懐紙)


 茶器は最初に回した分を逆回しにして戻す


「結構なお手前でした」

 また一礼。


「お粗末様でした」

 沙織ちゃんも礼を返した。


〝ちゃんと、飲み直したw〟


〝よっぽど、感動したんだな〟


〝そのお抹茶、飲みたい!〟


「今度は、〝りほ〟ちゃんに試食してもらいます」

 沙織ちゃんが言った。


「わらわも作法通りにやってみるか。見よう見真似じゃが」


「肩肘張らない感じでお願いします。まず茶菓子は、全部食べてくださいね」

 沙織ちゃんが作法を訂正した。


「…ぼた餅からじゃな」

 ぼた餅を適当な大きさに切り分けて口に運んでいく。


 もぐもぐ。


「ふむ…昔、甘いものは貴重だったからのぅ…。砂糖が簡単に手に入る、よい時代になったもんじゃ」


 昔は、甘いものが食べたいといったら、(なんて贅沢な人なんだ?)と白眼視されたことだろう。

 それを平気で言ったのが〝妲己〟であり、〝玉藻の前〟であったかもしれない。



〝さすがは8千歳以上〟


〝戦争中のおばあちゃんみたい〟


〝口調もおばあちゃんだよね〟



「失敬な!」

〝りほ〟が抗議する。



「まあまあ」

 俺が宥める。

 

「お茶も出来ました」


「頂戴する」


 姿勢を正し、お抹茶を受け取る〝りほ〟。


 茶器を二手半まわす。


 そして、三口半で飲み干す。


「結構なお手前で」


「お粗末様でした」


「確かに美味かった。これは、茶のたてかたや濃さや温度に極意があるとみた」


「石田三成は鷹狩で疲れて喉が乾いていた豊臣秀吉に所望されて、三杯のお茶をだして取り立てられたらしいね。喉が渇いてそうな一杯目はぬるく出し、二杯目は普通の温度で、三杯目は熱くて量を半分にして出したんだとさ」


〝三献茶〟


「そう。それです」


「その観点から言うと…おはぎの甘さ控えめな味に対して、茶の濃さもちょうど良い感じに調節しておるな。温度も動画で飲むのを考慮してややぬるめじゃが…ぬる過ぎると言うわけでもない。あくまで誤差の範囲で加減しておる。見事じゃ」


 そこまで解説するか。


「「勝敗は?」」

 紀香ちゃんと沙織ちゃんが期待に満ちた顔で俺と〝りほ〟を見た。


「うーん…ぼた餅はビールと一緒に食べたかったかもじゃのう。熱燗がでた点で、紀香をわらわは推す。主はどうじゃ?」


「勝敗のポイント、そこ?確かに和菓子とビールは意外と合うらしいけど…。俺は、お茶に感動した。毎日、たててもらいたいくらい」


「毎日」

 沙織ちゃんは顔を赤らめた。


「そんなぁ」

 紀香ちゃんはうなだれる。


 いや、勝負は引き分けというか、本来の審査員は〝りほ〟だし、

紀香ちゃんの勝ちなのではなかろうか?



〝お抹茶、ちゃんと飲み直してたもんなぁ〟


〝毎日?プロポーズですか??〟


〝言っていい?…てぇてぇ〟


〝だから、お砂糖吐きそうなんだって〟


〝紀香ちゃん、どんまい〟


〝紀香ちゃん。次、頑張ろう〟


「はい、頑張ります。次の機会、ありますよね?」



「…うん。京都の季節を感じてもらえるような企画は定期的にやって行こうと思う。メインの企画は違う物にするけどね」


「メインの企画ですか?」

 沙織ちゃんが視聴者を代弁するように言った。


「このチャンネルの本当の目的は、〝呪いや霊障の収集〟にあります。特に京都周辺の神社にお参りに行って呪われた事例などを寄せてもらえると嬉しいです。他の事例も取り上げるし京都周辺で起こったものは、解決に乗り出しもします。出張費は基本5万円と旅費などの必要経費ですが…その人の都合に合わせて相談に乗ります」


〝5万は高いかも?〟


〝信頼度とか実力がわからないから、高いか安いかわからない〟


「私たちは明さんのなじみ客です。何度もお世話になってますが、ぼったくったりや変な壺を売りつけたりはしません」

 沙織ちゃんが言った。


「さおりん、なじみすぎだし。でも、明さんは変な壺を売ったりは確かにしません」


〝2人ともお客さんだったの!?〟


〝どんなことに巻き込まれたの!?〟


〝むっちゃ興味あるわ〟


「それらの件は、本人達の了解をえて差し支えない範囲で後日、動画をあげるかもしれません。とりあえず、呪いや霊障などに関して相談に乗って欲しいことや解決してほしいことがあったら下記のウィッターアカウントにDMしてください。あと、熱い高評価やチャンネル登録もよろしくお願い申し上げます」


「「ご視聴、ありがとうございました!」」


「また、見て欲しいのじゃ!」


 これで、初めてのライブ配信が終わった。


♠️

 この配信の評価がどうなのか、まだよくわからない。配信するの初めてだったから。


 再生数は、3日で300件あまりと言ったところ。


 ただ…DMは何件か来た。その中の一件は、看過かんかできないものであり、即座に連絡を返した。


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