第21話精進料理?
五芒星の光。
そして、俺の影から現れたのは…
白金色の毛並み、頭の上には愛らしい狐耳、金色の眼、モッフモフの九本の尻尾——〝りほ〟である。
〝え?〟
〝なんか、出てきた?!〟
〝吉岡◯帆〟
〝ど◯ぎつね?〟
〝若くない?〟
〝可愛い😍〟
〝毛色もちがうし、尻尾が九本〟
〝九尾の狐?〟
〝千年生きると尻尾が一本増えるやつ?九千歳じゃん。いや…8千歳??〟
〝頭の横に人間の耳ついてないか、確かめたい〟
「ほう…これがSNSというものか。こんな板みたいな物で外部の者たちと繋がれるとは…。ふむ。〝人間の耳がついてないか確かめたい〟とな?ほれ」
〝りほ〟が撮影中のスマホに近づいて白金色の髪(?)を上げて見せた。
〝人間の耳がない?!〟
〝獣耳本物なの?〟
〝CG?〟
〝自然過ぎない?〟
〝え、本物?なんで、吉岡◯帆に激似なの??〟
「正真正銘本物の〝九尾の狐〟です。殺生石の封印を解きました。封印を解いた次の日、殺生石が割れたと話題になったはずです。吉岡◯帆に激似なのは…えっと…狐の
〝ど◯ぎつねのイメージに引っ張られたの草w〟
〝殺生石割れたの、ニュースで見た〟
〝この世の終わり?とか言われてた〟
〝近くの溜池が干上がったんでしょ?〟
〝プー◯ンが侵攻したの、こいつのせい〟
「プー◯ンは多分、関係ありません(苦笑)。さて、助手の紹介が終わったところで、助手の特技も披露していきましょう。今はお彼岸ということで、お彼岸にふさわしい料理を紀香さんと沙織さんが披露して、九尾の狐たる〝りほ〟に試食してもらい、判定を下してもらいます」
〝九尾の狐に『りほ』って名付けてるw〟
〝料理対決〟
〝頑張って〟
「まずは、紀香ちゃん」
「はい。もうお料理出来てます。じゃーん」
紀香ちゃんが宣言し、沙織ちゃんが紀香ちゃんの料理にスマホをフォーカスした。
〝おーっつつつ!〟
〝うまそう〟
〝彩り最高〟
〝食べたい〟
〝季節感がすごい〟
「コンセプトは、〝お彼岸にちなんだ精進料理〟です。動物性のものを極力使わないで味の方も最大限、頑張ったつもりです。メニューとしては…筍ごはん、豆腐ととろろ昆布のお吸い物、ふきのとうの醤油漬けです。まずは明さんに食べてもらいます」
「え、俺?」
聞いてないし。
「はい、あーん」
紀香ちゃんは吸い物の器をフーフーしてから俺に差し出した。
〝鬼姫が、『あーん』しとる〟
〝うらやまけしからん〟
「あ、ずるい」
沙織ちゃんが軽く抗議の声をあげた。
俺は、紀香ちゃんが口元に持ってきた腕から直接ズズズと汁を飲む。
「うまっ!」
率直な感想。
〝むっちゃ、うまそうに飲むやん〟
〝鬼姫の『あーん』やぞ?美味しくない訳がない〟
〝実際、うまそう〟
〝てぇてぇ〟
「次は、筍ご飯。あーん」
お箸に一口分挟んで俺の口元に近づける。
「あーん」
俺はやけ気味に応じる。ライブ配信なんだ、のらざるを得ない。
もぐもぐ。ごくん。
「シンプルにうまい。筍がシャキシャキ。油揚げが入ってるからか味もしっかりしてる。にんじんも入っているね。味もいいけど、彩りも美しい」
「むうっ!それ、わらわの役じゃろ?」
「〝りほ〟ちゃんには、もっと詳しい解説をお願いしますから。あと熱燗もつけます」
紀香ちゃんが手を合わせて謝罪する。
(俺のは、詳しくないのか?)
「よかろう!」
〝りほ〟は満悦の笑みを浮かべる。
多分、熱燗が効いたのだろう。
(ちょろい奴だ)
そして、紀香ちゃんはすでに〝りほ〟の操縦法を見抜いている。
「最後は、ふきのとうの醤油漬けです。あーん」
「あーん…ほろ苦くて美味しい。〝春の膳には苦味を足せ〟ってね」
〝へー〟
〝冬に溜まった毒気を消すんですよね?〟
…詳しい。
「さて、次は〝りほ〟ちゃんに試食してもらうんですけど…」
「新しい膳の準備できてるよ。熱燗は沸かし中ですけど」
「さすがは、さおりん。ありがとう。ごめんね。急なアドリブで」
「いいよ。私もやるから、アシストお願いします」
「了解!」
〝仕事が早い!〟
〝誰の家か知らんけど、台所を熟知しとる〟
〝通い妻?〟
〝ナイスアシスト!〟
〝みんな仲良いよね〟
〝さおりんって呼ばれてるw〟
〝友情が麗しい〟
♠️
〝りほ〟の前に新しい膳が置かれる。
「主が食した後では、やりにくいが…まず、見た目が美しい。汁物からいただこうか?」
お椀を持って飲む。その所作は存外、美しい。こいつ、箸の使い方も無茶苦茶うまいからな。行儀作法に精通しているというか。
「ふむ…動物性の物をなるべく使わないように心がけたと言っておったが…とろろ昆布のみで出汁のかわりにしておる。あとは、醤油と塩か?それらだけでこれほど上品な旨味をだすとは…柚子の香りも味をひきたてておる」
「わかります?」
「いい舌してるからね」
俺が補足する。
〝九尾の狐、おそるべし〟
〝普段から、いい物食べてそう〟
「それな」
「嘘つけ。カップ麺ばかりじゃぞ」
〝カップ麺ばかりの生活、かわいそう😢〟
〝ど◯兵衛かな?〟
〝食費、どうぞ〟
〝俺も〟
〝私も〟
スパチャがとぶ。
「次は、筍ご飯じゃ。…ふむ。出汁は昆布だけじゃ。調味料は醤油や酒、みりんも入っておる。主も言っておったが、油揚げが入っとるせいかコクや旨味もちゃんとある。香り付けに木の芽も入っとるな。付け合わせは、ふきのとうの醤油漬けか。…これも見事。漬け上がりの時間を完璧に見切っておる」
〝りほ〟は最後に熱燗をグイッとのんで、「プハーっ」と満足げに喉をならした。この所作は、おやじくさい。
〝紀香ちゃんの料理もだけどお酒も美味しそう〟
〝お酒飲んでいいの?〟
〝8千歳以上みたいだし、いいのでは?〟
〝8千歳以上は、草〟
「次は、沙織ちゃんの番です」
「まず食べてもらうのは、明さんですからね」
「準備できてる」
紀香ちゃんが即答する。
宣言通り、次は沙織ちゃんのターンだ。
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