第2話名付け
【九尾のキツネ】はきつねうどんの容器を持って、すんすんと匂いを嗅ぐ。
そして、スープ(出汁?)をふーふーと息をかけてさましてから、ズズズと飲む。
「はふー。初めての味じゃ。塩味が引き立つような…。これは、鰹…昆布…あと、大豆を発酵させた…醬(ジャン)のようなものが入っておるな。他には、塩に砂糖に…。この舌にかすかにピリッとくるものだけは何かわからん。なんじゃ?」
「お、おう…それは…アミノ酸とかリン酸塩とか炭酸カルシウムとかじゃないか? 平安時代にはなかっただろうし」
いわゆる、添加物。
「きつね揚げの方は…と。ふむ…汁がしみていて甘辛くてたまらん」
九尾の狐は、うっとり幸せそうな顔をする。
九尾の狐が食べているところを見ていると、ずっと見ていたい衝動にかられる。なんか懐かしいというか…。
「次は、わらわに名前をつけてたも」
魔物に名前をつけるのは、呪術的な要素が強い。その魔物の主になった証である。
こいつの名前は、もう決まってる。
「お前の名は、〝りほ〟だ」
刹那、俺の陰陽力がごっそりもっていかれたような脱力感がおれを襲う。
俺の陰陽力、この業界で知らぬ者がいないほどの一族の中でも歴代随一と称される質と量を誇るのに…。陰陽力の回復にも自信がある。
もっとも…封印をしたり解いたり、結界をはったり、悪霊やあやかしを払ったり、呪いを解いたりするのは得意でも、人を攻撃したり呪ったりするのは、苦手なのだが。
(名前をつけただけで、これか! さすがは三国に名をはせる大妖怪!)
俺は、ぶっ倒れそうなのをかろうじて我慢している状態だ。意地でもそんなそぶりは見せないけど…。
「〝りほ〟は、契約が終了するときまで身も心もそなたのもの。いくひさしく、よろしく頼むのじゃ」
「こちらこそ」
俺は甘えてくる〝りほ〟の肩を思い切って抱き寄せてみた。
〝りほ〟は嬉しそうに俺の腕に収まる。
そうして、俺達は2人で仲良く寄り添い合い、互いの体温を分け合うように星空を見上げるのだった。
♠️
日が昇ってお昼ちかくになると、〝殺生石〟が突然割れたと話題になった。
(封じ込められていた大妖怪は、俺の隣で人間に化けているよ)
別に、俺の影の中に潜んでくれていてもいいのだが…
〝りほ〟は新幹線に
その寝姿をみていると、俺まで眠くなってきた。
そんな感じで、俺は〝りほ〟と一緒に京都に戻った。
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