第3話悪夢
「はぁはぁ」
悪夢を見て、寝汗をぐっしょりとかいた。季節は、真冬だというのに。
「うなされておったぞ。大丈夫か??」
セミダブルベッドで俺に密着して寝ていた〝りほ〟がおれの背中を優しく撫でつつ、声をかけてくれた。
その感触と温もりに安心感と愛しさを覚えて抱きしめかえし、頬に口づけするものの…
(久々に悪夢を見たの、こいつのせいでは?)とも思う。
昨日も俺の精力を散々搾りとってくれたんだ。
「おはよう。昨夜も激しく搾り取られすぎた…」
「【朝ごはん】は?」
きつね耳のほんわか美女が俺を見つめて可愛らしく首を傾げた。
その様子はとても可愛いけれど…こいつの【ごはん】とは、俺の精気なんだぜ? 夜はともかく…朝は、勘弁してもらいたい!
時計を見る。朝の6時だった。冬の京都はこの時間でもまだ暗いし底冷えがする。
「悪い、仕事もあるし、気力も体力も温存しておきたいんだ。仕事料が入ったら、制約を緩めてうまいものでも食わしてやるからさ。今は、きつねうどんで我慢してくれないか?」
制約とは、〝俺の精気ときつねうどん以外は食えん〟というものだ。
こいつの食料問題を解決するのに苦肉の策をろうした訳だが…他の人間を食いさえしなければ、食べ物は別にきつねうどんに限らずハンバーガーやドーナツであっても問題あるまい。あくまで嗜好品にすぎないが。
「えー…あれも悪くないのじゃが、貧乏くさいというか〜」
——きつねうどんの宣伝キャラクターのような
贅沢で
(意外と情が深い所もあるけど)
〝りほ〟が
そういえば九尾って、もともとは瑞獣であり神獣であったはずだ。
なぜ、傾国の獣として封印されることになったのか?
(さしずめ…贅沢の限りを尽くしすぎて民衆から疎まれ、話をでっち上げられたのだろう)
18世紀、フランスの王妃であったマリー・アントワネットが、言ってもいない「パンがなければケーキを食べればいいじゃない?」を言ったことにされ処刑されたのと同じ理屈である。
(〝欲しがりません、勝つまでは!〟っていうスローガンを、部屋のそこかしこに貼りつけてやろうか?)
「お願い! きつねうどんで我慢して」と再度諭したら、〝りほ〟はやれやれといった感じで、ベッドから起き上がった。それから、術でしゅるりと衣服をまとい、隣りの部屋(リビング)でお湯を沸かし始める。
〝りほ〟のお湯の沸かし方は…金属球体の中に水を閉じ込め、念力で浮かしながら下から狐火で炙るというもの。
部屋が燃えたりスプリンクラーが作動したりしないように自分の周囲を小型の結界で覆うという細心さまで見せている。
(いくつもの超高度な術を…呪も唱えず、印も結ばず、さらっと
その手並みに感心するとともに、大妖怪がきつねうどんを作るためにお湯を沸かしているだけだと思うとちょっと面白い。いや……ごめんなさい。
「俺の分も作って」
〝りほ〟に頼んで、俺もベッドから起き上がる。
「あい」
【晩ごはん】と悪夢のダブルパンチで脱力感があるし、仕事に行きたくないのだが…
(食いぶちは稼がないと…)
♠️
三条御池という一等地に建つ、築5年1LDKのマンションは看護師が自殺した貸(
真子さんという名の地味だけど結構美人な自縛霊(享年28才)もいて、意気投合していたのだけど…〝りほ〟に怯えて成仏してしまった。
(来世では幸せになってほしいなぁ)
築浅で広くて設備も最高、立地も最高なマンションの一室を、「物置か?」と称した〝りほ〟には閉口した。
(皇居や王宮と比べれば、〝物置〟ですよ。どーせ)
〝鰻の寝床〟と言ったら京町屋みたいで風情もあるのだが…
服を着て、きつねうどんを食べ、顔を洗って、髭を剃って、仕事に行こう!
(今日は、どでかい仕事が舞い込みそうな気がする)
陰陽師としての勘がそう告げていた。
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