蛇の章
第4話残虐な呪い
俺の名前は、
六道家は、知る人ぞ知る陰陽師を先祖に持つ、裏の一族だ。裏ってことは、人を呪うことを主な家業としているということ。呪殺も厭わない。
一子相伝という前時代的で狂ったような相続形式をとっているために六道は分家が極端に少ない。皆無と言っても過言では無い。
表の一族は、占いやお祓いで生計をたてているし、一子相伝みたいな馬鹿げた相続形式はとっていないのだけど。
人を呪うより占いやお祓いの方が得意な俺は、表の血が濃いのかも?
そんなわけで、俺の仕事の一部は占いやお祓いだ。
メインは古美術商の手伝いなのだが…。
♠️
時刻は朝の8時。御池通りは、京都にしては車線も多く広めの道路。
冬の京都は雪こそあまり降らないが底冷えがして、まちゆく人々は曇天の下、厚着で難儀そうに身をかがめて足早に歩いている。世は不景気そうで、活気がない。
(
朝からそんな
「
自分の名前を呼ぶ声がして、そちらに顔を向ける。
重厚なおもむきのある市役所の前。地下にあるショッピングモールの入り口に立っていたのは、濃紺のダッフルコートにくすみピンク色のマフラーを着たJKである。
髪はストレートのセミロングで、前髪はぱっつん
真面目そうだが、女の子らしい可愛いさも入り混じっている。
コートにマフラーにスカート・ハイソックスという、いでたちは下がスースーして寒いのではないか? と思ってしまう。
「沙織ちゃんじゃないか。これから学校かい?」
「はい」
暗い表情。
坂道グループにいそうな中背で全体的にほっそりしていながら凹凸もある非常に整った容姿が台無し…いや、ちょっとだけ減点だ。
「放課後にまた、相談しに行ってもいいですか?」
この子は、しょっちゅう店に来てくれるし、友達も連れてきてくれるお得意様である。
お互いに名前で呼び合うほど馴染んでいるんだから相当なもの。
(なんか、懐かれてるんだよなぁ)
相談内容は…占いの他に、呪われていたり、生き霊に取り憑かれていたりの内容も頻繁だ。モテる子は大変である。
今回もそんな所だろうと、気配を探る。
いつもは、陰険そうな男の子や小狐や小鬼になりかかっている性格のきつそうな女の子とかが見える。
だが、今感じる気配はとてもそんなかわいい感じではないのである。いや…俺から見れば使い魔程度のそれらも、一般人からすれば取り憑かれたら気が重いと思うが。
[蛇じゃな。大蛇じゃ!]
俺の影から俺の心に直接囁きかける声。〝りほ〟である。
(ああ)
真っ黒な大蛇が沙織ちゃんの全身に巻きついて、真っ赤な目で舌をちらつかせながらこっちを見ている。
蛇を見ると背筋がゾワッとするのは、人間の本能か?
いや……
(犯人は高校生ではなかろう)
学生というか、素人にかけられる呪いではない。
生き霊や素人が半端にかけたちゃちなやつではなく、プロがかけた本格的なやつ——じわじわと締め上げてゆっくりとなぶり殺す、残虐なものだ。
「あとで絶対、お店に来て。待ってるから」
このままだとこの子、あと1カ月ほどで呪い殺されるだろう。
だが、呪いが複雑に食い込んでいて今この場では対処できそうもない。
「はい」
沙織ちゃんは俺と話して若干、安堵したように学校へ向かった。
♠️
仕事場は、市役所の向かい側にある寺町商店街の中にある。
古美術商を手伝っているのは、鑑定眼を買われてのことだ。古美術の知識もそれなりにあるが…付喪神の声が聞けるという特技が生きている。
持ち込まれた品が誰の作か付喪神に聞いたり、付喪神の記憶を見たら一発で鑑定できるのだ。
そのかたわら、占いもさせてもらってるのである。出店料とかは取られていない。俺の占いは、よく当たると評判で客寄せにもなっているからだ。相談料は、30分あたり大人は5000円、学生は1000円。
お祓いは、当人の家に出張させてもらうことが多い。出張料は5万円。別途必要経費を請求することもある。
相手の懐具合を考慮して成功報酬をもらうこともある。持たざる者からはとらないし、なんなら出張料もまけるくらいのスタンスである。
成功報酬をもらったら、アフターサービスによく効く護符とか幸運のお守りとかもつけちゃう。
呪われたり、霊障を受けたりしている心あたりがあったら、夜叉神明にご用命を!
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