第5話残虐な呪い2

 夕暮れ時。古美術商の店番をしていると、カランカランと扉が開く音がした。


「こんにちは。約束通りお店を訪ねて来ました」


 入ってきたのは、濃紺のコートにかすみピンク色のマフラーを巻いたJK——沙織ちゃんである。


「やぁ、沙織ちゃん。店長、陰陽師関連のお客さんが来られたので店番お願いします」


「あいよ」

 好々爺こうこうやといった風情の店長が気持ちよく店番を変わってくれる。

 まぁ、古美術商自体に人が来ることってあまりないし、店長も趣味でやっているようなもんだし。

 俺も占いに来て下さったお客様にあやしげな壺とか皿とかをセット販売するあこぎな真似はしていない。



 陰陽師関連の相談は、2階の一室で受けることになっている。占いをすることも多いし、プライベートな話しをすることも多いから。


 沙織ちゃんと一緒にトントンと階段を登っていき、ガチャリと扉をあける。

 部屋の中に「どうぞ」と招きいれ、椅子に座ってもらう。


「解呪の相談だよね?」

 俺には沙織ちゃんと朝あった時から呪いが。——大蛇が見えている。だから、率直に聞いた。


「そうなんです」


「今度はプロの犯行だと思うのだけど、心あたりは?」


「ある日突然、太もものあたりにアザができて、次の日に脅迫状が届いたんです」

 そう言って沙織ちゃんはカバンから封筒を取り出した。



 封筒の中には紙が入っていた。新聞や週刊誌を切り貼りして作った様な典型的な脅迫状だ。


「ふむ…〝斎王代を辞退しろ…さもなくば呪い殺す〟…ね。沙織ちゃん、今年の斎王代に選ばれたんだ。綺麗だし家柄もいいもんね」


 斎王代とは、5月に行われる葵祭で巫女を演じる役のこと。

 才色兼備。着物や祭りの費用を負担しないといけない(負担額は1000万円以上!)ので、実家が裕福で京都に昔から住んでいて信用を得ている家柄の出でないと選ばれない。


 俺からしてみれば、斎王代の実家が負担する額に(どっひゃー!)とひっくり返りたいのだが…。



「いえ、そんな。でも…太もものアザがだんだん上に伸びてきて、濃くなってきて…痛みもひどくなっていくんです。病院に行っても、原因がわからないし対処のしようもないって!」

 沙織ちゃんは照れくさそうに謙遜してから、だんだん表情を曇らせていった。


 実際、痛くて苦しいんだろうと思う。

 そのあざが首のあたりに達すると、被害者は死ぬ。



「それは辛かったね。呪いは見えているし、俺なら対処できる。ただ…時間がかかるし、今この場で対処できそうもない。きっちり準備をして…できれば、沙織ちゃんの家でご両親の立ち会いの元で処置させてもらいたいのだけど」


 朝、沙織ちゃんにあってから何も準備しなかったわけじゃ無い。

 呪いの症状を和らげ、進行を妨げるための護符なら用意した。だが、それでは対症療法にすぎず、沙織ちゃんを救うことにはならない。

 根本から呪いを取り除くなら、半日から数日間くらい祈祷を続けないといけないだろう。



「両親にも脅迫状を見せて、アザも見せているので、説得できると思います! ここに相談しに行くとも伝えてありますし」

 沙織ちゃんは沈んでいた表情が少し安堵側に傾いたようだ。


 


「うん。できるだけ早く対処しないといけないので、明後日くらいに自宅に伺わせて欲しい」



「わかりました!両親を説得でき次第、連絡します」


 俺は沙織ちゃんに準備していた護符をわたして連絡先を交換した。


 この経緯だと沙織ちゃんのご両親も心配しているだろうし、俺に対処を任せてもらえると思うが…陰陽師に理解を示してもらえるといいなぁ…。


 呪いで死にそうな相談者の親と価格交渉するのは、気が重い。でも最低限、出張費はもらわないとこちらも生活がかかってるんで。

 お祓いの可視化と充実したアフターサービスや良心的な価格設定を心がけてはいるが。


(最悪の場合、ただ働きもやむなし…か?)

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