第31話蛙変わるの術(明視点)

 金閣寺が炎上している結界内で、腹違いの兄が自害した。


 いや自害かどうかは、まだわからない。

 クソ親父いわく〝死中に活を求める〟行為だそうだから。


(本当に自分の生命力まで一滴残さず寄生しているカエルの呪物に注ぎ込むとは…)


 クソ親父ではないが、この腹違いの長兄を初めて見直したかも。


 俺の目に映る〝長兄だったもの〟はリアルに骨と皮だけというか…干からびてミイラみたいになっている。即神仏というべき物か? 目は充血してかっと身開かれており(なぜか、目だけ干からびていない)、この世の全てを呪ってそう。即神仏——絶対に崇めるような物ではない。


(これは、世の中に災厄を撒き散らす超特級呪物。陰陽師たるこの俺が孔雀明王の聖炎で燃やしつくして、しっかり供養すべき代物だろう)


 そんなことを考えていると…


 超特級呪物と化した兄だった物が、仄暗く光り始めた。


(まさか)


 漆黒の中には、六芒星の陣。この場合は、転生陣とでも呼ぶべきか?


(人間の身体や生命力、魂までも注ぎつくした蛙の呪物は、何になるのだろう?)


 怨念の塊そのものの、おぞましい何かが生まれるだろう確信がある。


 だが…


(陰陽五行説で考えるなら、それは何だ?)


 人間は哺乳類、蛙は両生類であり、別の類系である。

 そんなことは小学生でも知っているだろうが、陰陽五行説からいえば見解が異なる。

 陰陽五行説は生物の分類にも用いられるのだ。——これを、五蟲という。


 五蟲は、全ての生き物を表す概念だ。その五つは、介蟲・毛蟲・羽蟲・鱗蟲・裸蟲である。



 介蟲は、殻・甲羅をもつ生物で、貝や亀、エビやカニなどのことを指す。五行の属性は[水]。


 毛蟲は、獣のこと。五行の属性は[金]。


 羽蟲は、鳥や飛行する昆虫やコウモリなど羽を持つ生物全般を指す。五行の属性は、[火]。


 鱗蟲は、ウロコをまとう生物全般で魚や爬虫類などを指す。五行の属性は[木]。


 裸蟲は、毛もなく羽もなく、鱗もない裸の生き物を指す。ナメクジやミミズ、カエル…人間など。五行の属性は[土]。



 人間は、ナメクジやミミズ、カエルなどと同じ分類。


 つまり…


(人間であれ、蛙であれ、裸蟲で土属性ってことだ)


〝蛇に睨まれた蛙〟という言葉がある。

 蛇を見ると身がすくむのは、人間も同様だろう。



(〝りほ〟に蛇を出してもらおう)


 たいして意識していないが、蛇は小兄が愛して止まない生き物だった。三兄弟の因縁に決着をつけるのにふさわしい眷族であるかもしれない。


 いや、長兄が転生する前に目の前の呪物を燃やし尽くせば簡単なのかもしれないが…強敵の誕生を前に「オラ、ワクワクすっぞ!」とのたまう、どこかの星の戦闘民族に似た好奇心がそれを邪魔している。

 戦闘民族の血は流れていないが、クソ親父の血なら俺にも確かに流れているらしい。


 よって…


 俺が唱えるべく選択したのは、「【孔雀明王聖炎呪】オン・マユラキランティ・ソワカ!」というカエル怪人が生まれる前に即神仏を燃やし尽くそうとする孔雀明王の呪ではなく「【式神召喚】ヴァジュラ・オン・アーク!」という〝りほ〟を呼びだすための呪のほうだった。

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