第30話末弟と長兄(長兄視点)

 ワイは、末弟の居場所を知っとる。寺町商店街の〝寺町屋〟ゆうところや。


 六道の名前を捨てて古美術商で働いてるとは、けったいなやっちゃ。


「うぼっ」


 歩いている間も頻繁に吐くから、袋が手放せん。呪いを解いた暁には、覚えとれよ!


 袋の中には元気な赤ちゃんでいっぱいや。カエルのな!

 厳密にいえば、オタマジャクシやけど。


「こんにちは」


「…何用です?」


 けげんそうな顔。


「要件、わかってますやろ」

 まっ昼間に行くと、ちょうど明が店番してた。


 兄の顔を見て「何用です?」とは、ご挨拶やな。



「今、仕事中」


「知ってるけど、式紙にでも店番させときー」


「式紙分身か。まぁ、ちょくちょくやるのはやる。占いとかのお客さんが来たけど店長がいないときとか。【式紙分身】オン・アビラウンケン・ソワカ」


 周囲が光り、明が2人になった。


これが、【式紙分身】か。呪符の使い方と解呪や結界術、回復術に関しては天才といっても過言ではない。


「ほな、人のいないところで話そか?」


 2階に上がった。


♠️

「解呪のご相談ですか?」


「アンタがかけた呪いや。いい加減解いてぇや。死んでまうやろ?」


「身内なんだから頼み方、知ってるだろ?」


「金か?」


「現金より、純金がいいなぁ…。現金だと価値が下がるの怖すぎるし。世界大恐慌とか、第三次世界大戦とか、起こったら嫌だし」


「この、リアリストが!…純金…いくらや?」

 陰陽師が、世界大恐慌とか第三次世界大戦を折り込むなや。


「1億円相当。にっこり一括払いでよろしく!」


「うぼっ。…失礼。びっくりしたら、吐き気がぶり返してきたわ」


「袋、持ってきてやろうか?」


「もっとる!」


 ビチャビチャビチャ。


 袋をだして、吐く。


「いやー、老後に3千万円必要とか言われてるからね。2千万円だっけ? それ考えたら、今から1億円相当の純金かプラチナもっとかないと。いや、純金3千万円分と現金6千万円。残り1千万円分はオーストラリアあたりの安定した通貨でお願いしようかな?」


「現金と純金とオーストラリアドル…その額と支払い方法は、さすがにきついわ。まける気は? 現金3千万円でどないや?そのかねで純金でも土地でも買えばよろしいがな」


「びた一文まけないし、支払い方法も変えない」


「3千万円でも破格の値段やろ。ぼったくりもいいとこやで。1億円相当の資産要求するとか、実の兄を経済か物理か2択で殺す気か?」


「六道を滅ぼすのが俺の夢。母さんをあんたらに呪い殺されてからね」


「お前の母親いじめたワイらを、憎んでるんやんな。でも、現金と純金払ったら許すんか?それらを払うために死にそうになりながら、右往左往したら満足か?」


「許すか、ばーか。冗談に決まってるだろ?」

 目を血走らせてさけんだ。


 温厚な明にしては、珍しいことだ。


「呪いをとく気はなんいんやな?」


「ないね」

 即答。


 にべもないとは、このことだ。かねてから、1億円を現金と純金やプラチナやオーストラリアドルで持ちたいと本気で考えていたのもわかるが、ワテから受け取る気はないだろう。腹違いでも兄弟。それくらいわかる。


「ふん。これで決心がついたわ。なら、殺し合おうか?」


「呪われていて、陰陽力使えないだろうに、どうやって?」


「親父いわく、〝逆に考えろ〟やそうでな。カエルを取り除けないなら、陰陽力を注ぎこんで逆に支配しろとか、お前自身がカエルになってまえとか言うんや」


「へぇ…親父のいいそうなことじゃないか」


「むしろ、みんな妖になってしまえだとさ。世に妖が溢れたら陰陽師のありがたみがわかるだろ?とも言うとった」


「どういうことだ?」


「さあな。ワイには、もう関係ないやろ?実の兄が体内に寄生したカエルに陰陽力を爆与えするとこ見とき。骨と皮になったるわ」


「面白い。あ、でも結界張っていい? 店壊すわけにもいかんからな。妖になって暴れ回りたいなら、俺を倒して結界を破ってからにしてくれ。【結界術・金閣寺】オン・アビラウンケン・ソワカ」



♠️

「燃え盛る金閣寺…か。三島由紀夫やな。自殺繋がり…切腹やったか?」


「まぁね」


「お前らしい結界やな」


「腹違いの末弟に理解があるじゃないか?」


「今だからいうが、お前の才能は認めてたよ」


「そりゃ、どうも」

 ちっとも嬉しく無さそう。


 わかってる。こいつ、ワイを人として、認識してない。貶されても褒められてもなんとも思わないのだろう。目の前で死なれてもなんとも思わないんやろうな。大切にする相手は徹底的に大切にする癖に、興味のない相手は認識すらしない。意外と非情な奴。


 まぁ…こいつの母親を殺したのは、実質ワテやからな。恨まれてもしかたないし、後悔もしていない。


 


「呪いの才能は全然なかったし、六道の跡継ぎになるとは全然思ってないけどなぁ! はぁっつつつーーー!」


 ワイは、体内の陰陽力や生命力といったものを全て丹田に集中させ、体内の呪物に無理矢理喰わす。


(魂まで全てくれてやるから、限界を超えても喰らいさらせ!)


 ワイが死ぬ前に呪物が壊れて無くなるか、ワイが呪物を逆にのっとるか、ワイが無駄死にするかの3択や。


 意識はだんだんと薄れていく。


 地面に倒れる感触は、なかった。

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