第27話孔雀明王
「さて、蜘蛛が嫌う香について解説してもらおうか」
「へえ⤴︎蜘蛛が嫌う香りで有名なのはミントどす。中でも最強なんは、ペパーミントや!」
「他には?」
「ユーカリも使います⤴︎コアラが食べるあれどすな。中でも、ユーカリ・シトリオドラが一番」
「ユーカリ・シトリオドラ?」
それは、初耳。
「レモンユーカリとも呼ばれますな。葉からレモンの香りがします」
「レモングラスみたいな?」
「レモングラスはイネ科、ユーカリはフトモモ科や! レモングラスを使ってもええのやけど、レモングラスは蜂を呼びよせます」
〝詳しい!〟
〝香ってアロマテラピー?〟
〝洋風なチョイス!〟
「ニホンハッカも良え《ええ》!」
「なるほど。で、それらの材料はある?」
「持ち歩いてます。調合するのでしばしお待ちを」
持ち歩いてるの?
その間に俺は〝りほ〟を呼んでおくかな?
「さて、晴子さんに香を調合してもらっている間にこちらも準備をします。まずは、式神を召喚します。【式神召喚】ヴァジュラ・オン・アーク!」
五芒星の光。陰から出てくる狐耳のうらわかい感じの女性。九本のもっふもっふのしっぽ。——〝りほ〟である
〝え、吉◯里帆?〟
〝若くない?〟
〝ど◯ギツネ?〟
このやりとり、毎回やるの?
「俺の式神です!」
「〝りほ〟なのじゃ」
〝りほって名付けてるw〟
〝かわいい!〟
〝しっぽが九本。九尾のきつねじゃん〟
——はいはい。うちの九尾は、世界一可愛いですよ!
「晴子の呪い、蜘蛛だったよ。蜘蛛好きな眷属いる?」
「…
「如来の変化身の明王?」
「そうじゃ」
「鎮護国家の大法と言われる〝孔雀経法〟の本尊である孔雀明王?」
「そうじゃ」
「なんで、〝りほ〟ちゃんの眷属に孔雀明王いんの?」
「昔、孔雀明王の炎を食ったことがあってな。美味かった! あれほどうまい気の塊は食ったことがない」
「食うな! 孔雀明王の炎…多分それ、この星の未来を守るために神が残した遺物かなんかだから」
「ということは、わらわは神じゃな!」
〝りほ〟が胸をはった。
「食べていい物と悪いものの区別くらいつけようね。許可制だから今はいいけど」
〝何、食べてんねん!〟
〝まじで?〟
〝孔雀明王の炎って食えんの?そして、美味かったの??〟
〝昔っていつ?〟
「はぁ…俺の式神、最強クラスの【浄化炎】の使い手でしたー」
〝今、判明したの?〟
〝コミュニケーション不足?〟
〝知っておけよ〟
「ごもっとも」
コミュニケーションは大事だ。
♠️
「嫌蜘蛛香できましたー。準備しますね」
「ありがとう。蜘蛛を食べる眷属も用意できてる」
「なんどす?」
「孔雀明王だよ」
「へ?」
「孔雀明王! インドの女神・マハーマーユーリー。またの名を孔雀仏母」
「ま、まじどすか?」
「大まじ!」
「九尾、ぱない!!」
孔雀は、毒虫や毒蛇なども食べることから、人間の煩悩の象徴である三毒(貪り・嘲り・痴行)を喰らって仏道に成就せしめる功徳があるとされる。
♠️
「じゃ、護摩壇の前に座って」
護摩壇に嫌蜘蛛香をくべる。
「はい」
小兄の蛇呪物の主導権を握って沙織ちゃんから引き剥がすのに半日かけた俺だが、あの時より陰陽力が10倍くらい上がっている。
今回は、秒で終わらせてやるぜ!
「蜘蛛よ、退け。オン・アビラウンケン・ソワカ」
一匹の人の顔大の蜘蛛とかして晴子からはなれる呪物。
「そらいけ、【七尾・孔雀明王】。そして、毒蜘蛛を喰らえ!」
「キュオーン」
一匹の神々しい孔雀が甲高い鳴き声をあげて蜘蛛のところまで飛んでいき、一口で蜘蛛を飲み込んだ。
♠️
「というわけで、解呪終了。綺麗な顔になったじゃん」
色白で狐顔っていうの?吊り目で気が強そうで、有能そうな美女だ。
「ち、近い」
俺は、解呪の効果を確かめるように晴子の顔を両手でしっかり挟んで顔を覗きこんでいるのだ。
——これなら、晴子姉さんと呼ばれて大人気なのもわかる
「綺麗」
晴子は俺の手を自分の手で抑えて、顔を赤らめる。
(怒ったのか?)
何に怒るかわからない奴だな。
〝ダイレクトな褒め言葉w〟
〝確かに晴子姉さんは綺麗な顔してる〟
〝距離感、近っ!〟
〝見つめあって…キスする?〟
〝甘ーい〟
〝顔真っ赤〟
〝乙女やん〟
〝これは、新婚夫婦ですわ〟
〝可愛い〟
〝まぁ、何はともあれ呪いが解けてよかった〟
〝孔雀明王に呪いを食わすとか〟
〝本物?〟
〝見る価値はあったよね。CGや特殊メイクぽくはなかった〟
〝もう、新婚夫婦でいいよ〟
〝呪っても解いちゃうだろうし、ね〟
〝最悪、呪い返しとかあるからなぁ〟
「新婚夫婦ではありません(苦笑)。俺のチャンネルでもコラボするから見に来てね。京都らしいことします。晴子にはお料理もしてもらおうかな?」
「りょ…料理? こっ、こなたは食う側の人間やけど」
目が泳いでる。
〝食う側の人間w〟
〝料理に自信がないわけか〟
〝暗黒物質を錬成するんですね? わかります〟
〝暗黒物質を錬成する安倍晴明の子孫〟
〝晴子姉さんの暗黒物質、見てみたい〟
〝だめじゃん〟
〝陰陽術で、味だけは良くできるんじゃない?〟
〝それだ!〟
「あ、暗黒物質なんて作るほうが難しいんやからねっ!
明お兄ちゃんには女子高生の助手が2人おって、料理も無茶苦茶うまいし。審査員2人だと決着がつかないから、審査員に回ってあげるだけなんだからっ。もうええわ!この動画が気に入ったら、熱い高評価、チャンネル登録よろしゅうおたのもうします⤴︎」
綺麗なオチがついた。関西人の真骨頂な感じの動画である。
「またね」
見事なオチに感心しながら俺も挨拶して、今回の動画は終了。
♠️
「これから、どうする?」
「どうする…とは?」
「依頼者の解呪できてないんだろ? その後ちゃんと呪い返しまでしてこそ、お仕事終了だし」
「手伝って」
「……アフターサービスってことで、いいよ」
「明お兄ちゃん、大好き❤️」
晴子が俺に、がばっと勢いよく抱きついた。
頬づりとかもしてくる。
(現金な奴だ)
しかし、なかなか肉惑的というかグラマラスな体をしていてあったかいし、香の匂いも素晴らしい。ホラーにしか見えなかった真紅のルージュも、呪いが解けた今では、真っ白で綺麗な餅肌をより美しくひきたてている。こいつは、紛れようもない京美人だ。
変な気分になりそうだったので、晴子をさりげなく引きはがした。
——成長した体でそういうのは、やめて。
「どうも」
内心とは裏腹にそっけなく返す。
アフターサービスも手厚く。それが俺のモットーなんでね。
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