第18話誕生日会2(買い物回・回想回です)

 夕方になった。

 3月3日、夕方の四条河原町には活気がある。


 カップル達が楽しそうに四条通りをいちゃいちゃとひしめきあって闊歩かっぼしているのは雛祭りだからなのか、通常営業なのか?


 街の装い的には三色餅や一二単じゅうにひとえの着物みたいな色合いが溢れていて、もろに雛祭りをイメージした装飾がなされているが…。

 雛祭りの曲も流れているし。


(カップル的には、完全に通常営業だろうなぁ)


 ここには百貨店や各種の専門店などが数多くあるし、カラオケ店やボーリングなどができるアミューズメント店や飲み屋なども数多くあるのだ。


 俺は、そこにある百貨店の入り口で沙織ちゃんと待ち合わせ中。


「お待たせしました」


 前髪ぱっつんでセミロングの艶やかな髪をたなびかせ、中背、抜群のプロポーション、制服姿の超綺麗系で品行方正な感じのJKが静かに声をかけてきた。


 その声は聞き慣れたものであったし、どこかいつもより弾んだ感じがするということもわかる。


「やあ、沙織ちゃん。ごめんね買い物に付き合わせて」


「いえ…私も誕生日プレゼント買わないとですし。でも、明さんて結構可愛いくてセンスのいい物を買うイメージがあるのですけど…女子のアドバイス、いります?」


 沙織ちゃんは俺のあげた物を提示しつつ、可愛く俺を覗き込んで言った。


 それはホワイトデーには少し早いが、バレンタインデーのお返しである。


 大獄丸に勝てるかわからなかったから、戦いの前に渡しておいたんだ。


「使ってくれてるんだ」


「愛用しております❤️」


 ピンク色でレースのついたハンカチ。バレリーナが踊っているような刺繍もついている。


(なんか、嬉しいな)



 〝JKにバレンタインのお返しをするならどんなものがいいでしょうか?〟と店員さんに聞いたら「姪っ子さんですか?」と微笑みながら何点か提示してくれた物の一つ。


 沙織ちゃんはなんとなく淡いピンク色の物とかが好きそうなイメージだったのでそれを選んだんだけど。


「〝りほ〟にはちょっと豪華なきつねうどんと天ぷらそばを3つずつあげたんだけどね。最強ど◯兵衛」



「…喜んでました?」



「微妙な反応だったけど、普通のやつとの味の違いは正確に言い当ててた。いい舌してるよ。全く」


 普通の奴は税抜き1個193円。最強は一個248円と55円の差なのだが…。

 最強ど◯兵衛は、麺・つゆ・具材・薬味と全てにこだわっており、パッケージに〝すべてが主役〟と銘うっている。


 麺は通常より極太でフワッともっちりした食感。つゆはより複雑で立体的な味。具材のきつね揚げやかき揚げのボリューム感は通常の1・7倍。薬味は「八幡屋」のゆず七味。


 祇園にある稲荷寿司専門店「釣狐つりぎつね」の稲荷寿司とどちらにしようか迷ったが…


 釣狐の稲荷寿司は添加物などが一切入っておらず、いなり揚げ以外の具材もこだわりぬいているようで、甘さ控えめで後味もインスタントうどんと隔絶しているので辞めておいた。あれを一度食ってしまったら、他の稲荷寿司は変な甘味ばかりが強調されているようで食えん。至高の稲荷寿司の味を〝りほ〟に覚えさせる必要はあるまい。


(あれは、まさに狐を釣るためのものだ!)


♠️


「しかし、人が多いですね」


「雛祭りだからでもなさそうだけど…」


「はぐれてしまいそうです」


 意味深に俺を見つめる沙織ちゃん。


「手を繋ぐ…とか?」


「はい!」


 沙織ちゃんは、にっこりと手を差しだした。


 普通につなぐ。恋人つなぎとかじゃなくて。




「何を買ったらいいかな?」

 手をつないで歩きながら、本題に入った。


「消え物が妥当ではないですか?最強ど◯兵衛は無しですけど」


「消え物ねぇ…紀香ちゃんって、剣道をかなりやりこんでる?」


「ええ…全中の個人戦を3連覇するくらい凄いですよ。なんでですか?」



「手や足裏やかかとなどが結構、荒れてたし、マメやタコもできてた。なんて言うの?職業病??」

 経文を全身に書き込んだ時に気づいた。


「ああ…ハンドクリームですか?」


「うん。俺も山ごもりとかよくするから、自分で調合したほうが効きそうなんだけど…今回は買おうかなって…」


「…自分で調合したものも、あとで差し入れますよね?」


「うん。それで、俺が調合したほうが良く効くって言って欲しい」


「それ、持続的に紀香ちゃんや剣道部の他の子に売りこもうとしてません?さらに…私や私の周囲の子にも売ります??」


「さすがは、沙織ちゃん!俺のこと、よくわかってるじゃん」


「もうっ!」

 沙織ちゃんは呆れたように笑いながらつないでるのと反対の手で俺の腕を叩いた。というか、軽くボディタッチした。全然痛くない。



「半分、冗談だけど…それだけでいいかな?」


「半分、本気なんですね。…消え物だけじゃ罪悪感があるなら…私と折半ということで何か残るものを買います?それなら重くならないでしょうし…。私的にも予算が倍になるので、嬉しいですし。えへへ」


「それでいこう!」


 〝えへへ〟って可愛いな。


♠️

 ハンドクリームを見てまわって買った後、小物類を見てポーチを買った。


 その後、京風おでんの具材や誕生日ケーキ・飲み物などを買って、紀香ちゃんの家に向かった。


〝りほ〟と鈴さんは、結界を張って大嶽丸を解体している所かと思うが、下処理まで終わったかな?


——————————————————————————————

[後書き]

 稲荷寿司専門店「釣狐」本店は祇園の大和町に本当にあります。

他には、伊丹空港にも支店があります。

本店は路地裏のわかりにくい場所にあるので、初めていく場合は地元の人に聞いたほうがいいです。1人では絶対にたどり着けません。

 味は、京風出汁でいなり揚げや具材や調味料などもこだわりぬいていて絶品です!


 ついでにいえば、最強ど◯兵衛もあります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る