第25話人面瘡
「【
晴子の左顔面は、腫瘍に覆われていた。その一つ一つが悶え苦しむ人のような顔をしていたのである。よく聞くと、
海岸の岩をよく見るとフジツボがびっしりついている。そんなイメージだろうか? 顔面にフジツボがびっしり寄生していたら、とても恐ろしいし気色悪いだろう。あまつさえ、一つ一つがうめき声を発しているのである。
「そう」
「どうしてそうなった?」
「依頼を受けて式神に食わしたら、祟られた。この呪い、六道の長男のものだからねっ! 責任とって。明お兄ちゃん」
呼び方が〝明お兄ちゃん〟に戻ってる。
(犯人は
「式神に食わしたのか…それでも解決するような気もするが…【式神召喚】ヴァジュラ・オン・アーク」
俺の影が光り、〝りほ〟が出てくる。
「ふぁーあ」
〝りほ〟は気怠げにあくびをしていた。
「寝ていたな…いや、起こしてすまん」
「退屈していたところで、外に出ようか寝ようか迷っておったどころじゃ。で、何用じゃ?」
——自分からぽんぽん外に出てくるなっての。
〝りほ〟は俺の影の中に漫画とかも持ち込んで現代の知識も吸収している。向上心もあるが、自由な式神様だ。
「人面瘡を式神に食わそうとしたら解呪に失敗したらしくて…なんでかな?って」
「ああ…式神にも好き嫌いがあるからじゃろうな。さしずめ、嫌々食わされて食あたりでも起こしたのではないか?」
「好き嫌い。そういえば…無茶苦茶、嫌そうに食べていたような…」
「【人面瘡】の祓い方なら、いくつか文献があるだろ。読んだのか?」
俺は、呆れ気味に問うた。なんでも式神で解決できると思うのが間違いなのだ。まずは、文献検索。常識だろ。
俺だって蛇の呪いを解いた時も、大嶽丸を討った時も、ちゃんと文献を読んだんだぞ?
「その時は、読んでなかった」
「自分が呪われてからは? 確か、
「貝母を飲ませたのは『
「そのやり方、試したのか?」
「試したけど、効果なかった。というか、最初に呪われていた人の時は物を食べていたのに…私に取り憑いてからは陰陽力を毎日ことごとく吸収するようになって、仕事ができない。経文も効かない。六道の呪い、
「六道の名を捨てた俺に言われても…」
ちなみに…※※※浅井了意著『御伽婢子』九巻「人面瘡」には、
食べ物を与えると痛みが引くが、与えないと耐え難い痛みさいなまれる。そのうち農夫は骨と皮だけのように痩せこけ、あちこちの医者を頼っても効果がなく、死を待つばかりとなった。
そこへ諸国を旅している
修験者はその金でさまざまな薬を買い求め一つずつ腫瘍の口に入れていったところ、そのことごとくを飲み込んだが貝母という薬だけは嫌がって口にしようとはしなかった。そこで貝母を粉末にして、腫瘍の口に無理矢理入れた所、1週間後に腫瘍が消えたという※※※
また、※※※江戸時代の怪談集『諸国百物語』には…下総国臼井藩に住む平六左衛門という男の父が下女に手をつけたので、妻が嫉妬のあまりその下女を殺害した。
以来、父の右肩に腫瘍ができ、その数日後に妻が急死。
それから左肩にも腫瘍ができ、両肩の腫れ物が絶えず父に話しかけ、無視すると死ぬほど呼吸に苦しむようになった。
ある時、この家に泊まった僧が事情を知り、法華経を唱えると、腫瘍から蛇が現れたので、それを引き抜いて塚にうめ、経を読んで供養したところ、ようやく癒えたという※※※
♠️
「解呪に失敗したら、俺も呪われるというわけか?」
「明お兄ちゃんなら大丈夫!」
「その心は?」
「晴明神社に婿入りすればいい」
「…はぁ?」
俺のななめ後方から絶対零度の声を発したのは、沙織ちゃんである。
沙織ちゃんのこんな声、はじめて聞いた。
「どうしたの?」
俺は、驚いて沙織ちゃんに問いかけた。
「婿入りするなら、田鶴屋です!」
固い決意の断言。
「俺が、失敗する前提?? しかも、失敗したら晴明神社か田鶴屋さんに永久就職かぁ」
嬉しいような、悲しいような。
「わらわはどうなるのじゃ?」
「野良九尾かな?」
俺、即答。
「…呪いごと、食い殺すぞ!」
「呪いだけ食えっての」
食あたりするらしいけどな。
「で、婿入りはいつにする?」
晴子が話を進めようとした。
「その話は置いておいて…報酬は? 動画収入、どのくらいあるんだ?」
「話を置いておかれた!…ばらつきがあるけど、月200万円くらいの収入があったよ。今は休業中」
「200万円!」
沙織ちゃんがびっくりしてる
「ふふん」
晴子が勝ち誇った。
「じゃあ、前金は10万円。成功報酬は、90万円って所だな。婿入りは…失敗したら考える。〝りほ〟も野良九尾になりたくなければ、協力してくれよな」
「…仕方ないのぅ」
「あと、解呪はコラボで生配信しようぜ!」
「コラボ? いいけど、身内から金をとるんか?」
「当然。俺は持たざる者からはあまり搾取しないが、持ってる者からはたくさんもらう」
「だれからもぼったくる六道の一族にしては真っ当やけど…明お兄ちゃんも結構がめついわ」
「じゃ、そういうことで」
こうして、コラボ企画で解呪することが決まった。
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