第11話鬼の生態ってどうなってんの??

♠️紀香ちゃんの家


 紀香ちゃんが俺の店に相談にきてから3日後くらいに俺は紀香ちゃんのうちを訪ねた。


 紀香ちゃんのお父さんは、紀香ちゃんが産まれてすぐに事故死したらしい。車を運転中に突風に車ごと斬り飛ばされたように亡くなった。かまいたちみたいな現象というか?


 というわけで、これから会うのは紀香ちゃんのお母さんである。


♠️


 結構大きい家のリビングに通される。


「始めまして…陰陽師の夜叉神明です」


「夜叉神さんねぇ…」


 紀香ちゃんをウェーブのかかったロングヘアーにしてメガネをかけて大学生くらいにしたような女性がいぶかしげにつぶやいた。


 いや、紀香ちゃんのお母さんが大学生なわけがない。IT系の企業を経営されているということだし、少なくとも30代後半前後の年齢のはずだが…。美魔女とは、こういう人のことか。


「なにかご不審でも?」


 陰陽師ではなく苗字にひっかっかってるような反応だ。

 普通、陰陽師に疑問を抱かないか?


「いえ……式神の気配がするので、陰陽師だということは疑いません。娘が鬼に呪われているのも、次の誕生日に鬼から襲われるのも知っています。原因を作ったのは、不本意ながら私ですし…。ですが、苗字が夜叉神であることは疑問を抱きます。あなたの苗字は、土御門つちみかどもしくは……六道りくどうなのではなくて?」


「はい?」


 式神の気配を感じるとか…娘が鬼に呪われる原因とか…六道の名前を当てるとか…


(この人、何者? 情報量が多すぎるんですけどー)


 ちなみに土御門は、六道の表側に相当する一族だ。


「あなたの式神、〝九尾の狐〟ですね。そして、〝九尾〟を縛っている術式は、土御門か六道のものです」


「なるほど…ちなみに六道は父方の姓です。今はゆえあって母方の姓を名乗ってますけど。俺の式神である〝りほ〟とは面識がおありで? あなたは〝鈴鹿御前〟ですよね?」



「転生体ですけどね。今は〝鈴〟と申します。九尾は平安時代からの知己です」


 目のまえの美魔女は、紀香ちゃんの母親で鬼姫本人だった。


「やはり」


「えっ?」

 紀香ちゃんは鈴さんの隣で驚いている。


 そりゃ鬼姫の子孫だと知っていても、母親が鬼姫の転生体だとは思ってなかったのだろう。


「まぁ、先祖が鬼姫ってだけにしては気が強すぎますからね。紀香ちゃんそのものが鬼の転生体か、純血の鬼じゃないと説明がつかないと思っていました。鬼に呪われているのは、紀香ちゃんの出生に秘密が? こんなこと聞いていいかわかりませんけど」



「そうですね。紀香、部屋に戻ってなさい」


「……。はい」

 紀香ちゃんは名残惜しそうに部屋に戻った。


 そりゃ、自分の出生の秘密は気になるだろう。


♠️


 紀香ちゃんが自分の部屋に戻ってから鈴さんがお茶とお茶うけを前に話始めた。


「信じてもらえないかもしれませんが……紀香は決して不義の結果生まれた子供では有りません。呪術の結果というか…」


「はぁ。差し支えなければ、詳しくお聞かせください」


 

「はい。私はなかなか子宝に恵まれず…鈴鹿山にある神社に子宝を願ってお参りに行ったんです。氏神なんですけど」



「なるほど?」


「そこの神社に鬼が巣食っていたというか…復活していたというか…」


「その鬼に恨みをかっていたとか?」


「……その通りです。鈴鹿山の神社に祈願したら、そこに巣食っていた鬼に呪われて、生まれたのが紀香です」


 呪いで子供ができるとか、鬼の生態って不思議!

 いや、それも気になるけど…


「鈴鹿山…鬼…復活。もしかして…紀香ちゃんの本当の父親というか…紀香ちゃんを呪っているのって…大嶽丸おおたけまる…ですか?」


 〝大嶽丸〟って、〝九尾の狐〟、〝酒呑童子〟と並ぶ日本三大妖怪の一体なんですけど…

 桓武天皇の時代に伊勢国鈴鹿山に巣くっていた鬼だったか?


「よくご存知で…。大嶽丸の呪いで紀香は次の3月3日に食われます。それで…私と一緒に紀香を守ってもらえないでしょうか?できれば、大嶽丸を滅するとまではいかなくても封印してくださると助かります。謝礼は相応にお支払いいたしますから」


 鈴さんは必死に俺に頼んだ。娘が大切らしい。


「相手が〝大嶽丸〟ではこちらも命がけですね。…謝礼はどんな感じでしょう?」



「前金で30万円と…【顕明連けんみょうれん】。成功報酬として、270万円でどうでしょう?」



「【顕明連】ですか!…いいでしょう。全力で娘さんを守らせていただきます。ただ…乙女に少々不適切な結界術をほどこすことになりそうですけど…」


「どんな方法ですか?」


 ごにょごにょ



「それは…紀香本人の許可を取ってください」


 【顕明連】とは、大嶽丸が所有していたとされる【三明の剣】のうちの一本である。大嶽丸がその三本の剣を所有していることで傷一つ負わない加護を受けているということで鈴鹿御前と坂上田村麻呂が計った。


 色仕掛けで【三明の剣】を奪いとったのである。

 それから大嶽丸は封印されたのだ。そりゃ、鈴鹿御前が恨まれるの当然なのだが…。


 前金30万円と【顕明連】という歴史的価値も非常に高い宝剣。成功報酬が270万円というのも破格である。

 紀香ちゃんに結界術を施すのは気が重いが…この依頼、絶対成し遂げよう!


 というわけで、前金30万円と【顕明連】を受け取ってその日は帰った。


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