第43話沙織ちゃんのガードを固めよう3(明視点)

 今日の動画の出演者は俺と沙織ちゃんだけだった。撮影係は〝りほ〟。


 動画は、沙織ちゃんが呪われやすいというエピソードを紹介。普通の人なら一生真っ黒にできない呪い避けのお札を三か月で真っ黒にしたことも紹介した。15分くらいで。


 それから…


 お札を卵にする儀式を開始。その儀式は、テーブル越しに俺と沙織ちゃんが向かい合わせにすわり、沙織ちゃんが両手でお札を包み込むように挟み、その両手を俺が包み込むように握って一緒に呼吸をあわせて呪を唱えるというもの。


 唱える呪は…恋愛成就、結婚成就、夫婦円満、子宝、安産、子育てにご利益のある愛染あいぜん明王。男女関係をコンプリートさせてくれる、とても親切な明王様である。お顔は何故か憤怒の表情。とても怒っていらっしゃるのだけど。



「「【愛染明王あいぜんみょうおう神産かみうみ呪】ウン・タキ・ウン・ジャク・シッジ。ウン・タキ・ウン・ジャク・シッジ…」」


 熱心に祈祷していると、お互いの額が次第に近づいていき、ピタッとくっついた。集中のあまりお互いに前のめりになったのかも?


 フワッと上品で爽やかな白桃のような香りもする。ラクトンc11だっけ? 若い女性特有の甘くて芳醇ほうじゅんな香りである。おでこには、しっとりすべすべの感触と俺より低めの体温。


 あと、何故か昔読んだ中華ファンタジーを思いだした。十二◯記なんだけど…。その世界では、里木りぼくと呼ばれる木に夫婦で祈祷すると、胎果と呼ばれる子供がなるんですよ。


(沙織ちゃんが俺のことを(式神の)父親って言った意味がわかったかも)


そんなことを考えながら、熱心に数分祈っていると…沙織ちゃんの両手の中にあるお札が眩く光だした。





 光が収まって、俺たちの間にあったのは、鶏の卵くらいの大きさで虹色に輝く縦長気味の球体。


「私達の愛の結晶ですねっ!」

 沙織ちゃんが上気した顔ですこし疲れた顔をしながらも、とても誇らしそうに俺をみた。


「…そうだね」



「コメントをいただいておるので…読み上げてもよいかな?」

 〝りほ〟が呆れ気味に言った。


「「…どうぞ」」




「スマホの画面は、コメントで溢れかえっておるが…おおむね〝末永く爆発しろ!〟じゃな」



「ありがとうございます。良い子を産みますねっ」


 沙織ちゃんは、卵を胸のあたりに大事そうに抱えながらしみじみと言った。


「この動画が気に入った人は、チャンネル登録、高評価。よろしくお願いします!」


 これで本日の動画は終了。燃やさないでね?



♠️

 その夜、久しぶりに悪夢をみた。悪夢の内容は、以前とは別のものである。いや、いつものように〝りほ〟に【夜ご飯】をあげすぎて気絶していたのだが…。


「式神を産む…か。妬けるねぇ」


 リアリティのある夢。いや…これは何者かによる呪術?だが…話しているのは誰だ??


 容姿を説明すると、中学生2年生の平均くらいの体格と発育度の………見知らぬ女の子。肌の色は褐色。髪は銀髪のロングストレート。瞳の色は金色だ。その容姿は褐色の妖精…ダークエルフを彷彿ほうふつさせる美しさと妖艶さ。


「誰だ?」



「…つれないなぁ。妹が遠いところからわざわざ会いにきたんだよ。嬉しいでしょ? もっと、うれしそうにしてよ! お兄ちゃん!」


「妹?」

 俺は末っ子で妹もいないはずだが…。遠くって、どこから会いにきたんだ?


 それにこいつ…人間じゃない。感じるのは、邪悪でこれまで感じたたことがないほど圧倒的に強大な………呪力。その呪力の前で俺は金縛りにあっているのである。


「まだ産まれてないけどね。パパが今、一生懸命、ボクを作っているんだよっ♪」


 クソ親父が色々と呪力を集めて作ってるのがこいつか?


「何のために?」


「さあ…でも、お兄ちゃんの【晩ご飯】は私が全部もらうの! 見てたら、とても美味しそうだったし。で、お兄ちゃんの子を産むのもボクなの。ボクだけなの!! 他の女は、殺しちゃうから」

 ギンっという擬音が聞こえるほどの殺気と眼力。



(見てたって、何をだよ?俺って美味しそうなの? 他の女って誰? いや、何人だよ。もしかして世界中の女…か?)


 そのさまは狂気そのもので、言っていることがこの上もなく本気だとわかる。そして、世界中の女を殺し尽くせるくらいの力をたしかに持っているだろうことも。


「なんで…」


「〝欲しいものは力づくでも絶対手に入れろ!〟ってパパが言ってる。胎教ってやつ?」


「あの、クソ親父〜!」

 胎教って、お腹の中にいる胎児が感性の豊かな子供に育つように親が美しいクラシック音楽とかを聞かせる奴ですよね? 何を教えこんでやがる!


「というわけで…産まれたら、お兄ちゃんに会いにくるからねっ! ああ…そうそう、ボクの名前は〝六禍〟。六つの禍い《わざわい》と書いて〝りっか〟だよ。種族名も〝わざわい〟。覚えておいてっ♪じゃーねー、ダスビダーニャ(←ロシア語。さよならの意味)!」


「ちょ…まてよ」


 …六禍と名乗ったそれは、終始、圧倒的で威圧的な呪力を放ち、言いたいことだけ言って去っていった。


(六禍…〝わざわい〟だと?)

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