第37話醍醐の花見

 4月の第一日曜日。俺は、動画撮影のために結界を張った。


 「結界術・【千本桜醍醐寺】。オン・アビラウンケン・ソワカ」


 それから、レジャーシートをセットする。今日は、俺と〝りほ〟・沙織ちゃん・紀香ちゃんの他に、晴子、鈴さん、沙織ちゃんのご両親も呼んでいる。


 レジャーシートの真ん中には、沙織ちゃんと紀香ちゃんが主に作ってくれたお重が鎮座。俺と〝りほ〟と晴子も盛り付けなどを中心にちゃんと手伝ったのだが。


 ちなみに、本物の醍醐寺はレジャーシートを広げたら速攻で注意されるので、気をつけなければならない。文化遺産のため境内での飲食も厳禁である。ダメ、絶対!


 満開の桜のもとで、キンキンに冷えたビールやジンジャーエールをついで準備オッケー。酒宴だ。動画撮影だ。ライブだー。


♠️

「みなさん、こんにちはー。陰陽師の夜叉神明ですー。今日は、醍醐寺…を模した結果内からライブでお届けしまーす」


〝結界?〟


「本当は、豊臣秀吉の〝醍醐の花見〟と洒落込みたいのやけど…本物の醍醐寺は飲食厳禁で、レジャーシートも広げちゃだめなのどす」

 晴子が悲しげに言った。


「ここ、明さんが陰陽術で作った異空間なんですよー! すごいですよねっ」

 元気いっぱいに言ったのは紀香ちゃん。


〝異空間…意味不〟


〝CG?〟


〝CGにしては、違和感ないよね〟


〝大河ドラマとかのCGは違和感ありまくりだもんねー〟


「千本もの桜が満開の醍醐寺。普通なら人でいっぱいで息をつくのも大変なところ。明さんが忠実に再現した結界内なら、独占状態です」

 これは沙織ちゃん。


「今日は、花見配信ってことで、沙織ちゃんや紀香ちゃんの親御さんにも来てもらってまーす。みんなでどんなことをしているのか、親御さんにも見てもらわないとね」


〝まさかの親御さん登場!〟


〝授業参観かよ〟


 スマホを鈴さんへ向ける。


「紀香の母で鈴と申します」

 鈴さんは気軽い感じでスマホに向かってぺこりと頭を下げた。


〝超美人〟


〝紀香ちゃんにそっくり〟


〝え、めっちゃ若くない?〟


〝紀香ちゃんのお母さんなら30代は超えているはず〟


〝大学生くらいにしか見えない〟


「美魔女ってやつですね」


「明君ったら、本当にお上手なんだからっ」

 鈴さんが俺の腕をパシッと軽く叩いた。


 ちょっと痛かったし、動画も揺れた。


「それから、沙織ちゃんのご両親です」

 今度は、沙織ちゃんのご両親の方にスマホを向けた。


「「どうも」」

 上品で実直そうな中年夫婦が揃って丁寧に頭を下げた。


〝上品で真面目そう〟


〝いかにも沙織ちゃんのご両親って感じ〟


〝沙織ちゃんや紀香ちゃんの親御さんが出てくるとか、どんだけカオスなんだ〟


〝斬新すぎるw〟


〝これから何すんの?〟


「えっと…式神分身にこの結界の中を案内させて、その間に僕たちは沙織ちゃんと紀香ちゃんが中心となって作ってくれたお重でも堪能しますか」


「まずは、乾杯なのじゃ!」

 〝りほ〟が割り込んだ。


「そだね。みなさん、紙コップを持ってください」


「「「「「はい」」」」」


「乾杯!」


「「「「「かんぱーい!!!」」」」」


 みんなでカップを合わせて。ビールやジンジャーエールを飲んだ。



〝フリーダム〟


〝楽しそう!〟


〝爆発しろ〟


「爆発ってどうやるんだろう?」


「…何を真面目に考えるておるんじゃ」


「いや。術理がわからないと、やりようがないからさ。爆発ってどうやるのかなって…。ちなみにネタの〝幽体離脱〟ってやつなら、やり方を思いついたわ!」


 前回、視聴者さんから言われたやつ。


(陰陽の気を圧縮して、限界以上に留める感じか? 自身を爆散させること自体は、簡単だろう。問題は……限界ぎりぎりまで陰陽の気を留めたまま爆発しないようにする精緻なコントロールができたなら、圧倒的な戦闘力を得られるだろうことだが……それは極めて難しいだろうな)


 核爆発の原理の一つ。【爆縮】ってやつだ。



〝本気でどうやったら爆発するか、考えてやがる〟


〝「爆発しろ」って言われて、やり方に悩む奴、始めて見たw〟


〝真面目かw〟


〝火薬をつかえ!〟


「火薬を使ったら爆発するのは、わかりますけどね。とりあえずネタの幽体離脱というか、式神分身しますね。それでこの結界内をぐるっと撮影しますから」


「この結界内、先程見てまわりましたが、本当に醍醐寺を隅々まで忠実に再現していて素晴らしかったですよ」

 真面目にこう言ったのは、沙織ちゃんのお父さんである。


「ありがとうございます。では、【式紙分身】。オン・アビラウンケン・ソワカ!」


 五芒星の光が起こって、俺は2体に分身した。

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