第48話パジャマパーティー3

あるじよ〝怪異〟とは、〝呪い〟とは、なんじゃ?」


 動画をライブで配信中。みんなで一つずつ怪談を披露している。今日の動画は長くなりそうだったので前後半の2部構成に分けた。前半は沙織ちゃん・晴子・紀香ちゃんが話し、後半は俺と〝りほ〟が話す。〝


 りほ〟は自分の順番が回ってくると、開口一番、俺に質問を投げかけて来た。〝りほ〟がこんなことを聞いてくるのは、珍しい。というか、初めてである。


「〝人による負の思いが凝縮した物〟だろ? 陰陽道的には、〝陰〟に属する物だ」



「…そうじゃろうな。では〝神獣〟とは、〝祈り〟とはなんじゃ?」


「人の希望が凝縮した物。陰陽道的には〝陽〟に属する…かな? 微妙な所だけど」


「…ふむ。それらは容易に〝怪異〟や〝呪い〟と化す不安定な物じゃろうからな」


「そう。というか…どうした?いつになく真面目な話だな」


 こいつ基本、食欲と色欲と睡眠欲と自己顕示欲の権化なんだけど。千年封じられていた影響か、現代のことにも強い興味を示すのだが。


 まぁ、陰陽術の根源につながる話。動画的にも趣旨に合う。俺達はこういう話をするべきなのだろう、本来。



「〝りほ〟ちゃん、大丈夫?」


「また変な物でも食べた??」


 沙織ちゃんと紀香ちゃんも本気で心配してくれている。

 まじ、天使!


「〝また〟って、なんじゃ!」

 少し、キレ気味に突っ込む〝りほ〟。


 まぁ…確かに蛇とかハンバーグとか鬼とか蛙とか、変な物ばかり食わせている。呪いが凝縮された特級呪物ばかりというか…。こいつの主食、呪力と精力なんだもん!



「まぁまぁ。話しの続きをはよ!」

 動画主の晴子が先を促した。


「うむ。まぁ、なんじゃ。わらわもかつては神獣じゃったって、話じゃな。いろいろあって、〝怪異〟・〝大妖怪〟となったわけじゃ」


「「いろいろ?」」


 仲良くシンクロして、合いの手をいれる沙織ちゃんと紀香ちゃん。


「さしずめ…何もせず贅沢三昧を極め続けていたら、周囲の妬みや恨みを買ったんだろ?」



「それな! いや。もともとは、神獣に対する貢ぎものじゃったんじゃぞ? 一万年前は、〝狩りの神〟として崇められとった。果物とか生贄とか捧げられてたし!」


「生贄…な〜!」


 京都弁の合いの手。晴子である。


「それが…人間を捧げるのは、どうかって話になって…栄養価値が遥かに劣るというか…ほとんどない饅頭とかになってみよ? 怒るじゃろ」


「あー。白パンしか食べたことのない貴族が、庶民が食べる最底辺のカピカピ黒パンを食べることになった感じか?それで、暴れた…とか?」


 いや。白パンから黒パンだと、栄養価は逆に上がる気もするが。


「まぁな。わらわも、若かった。荒ぶる神だったのじゃ!今じゃ、すっかり丸くなったがのぅ。バレンタインデーのお返しが、カップ麺6個でもキレないし」


「どんだけ暴れたの?」


「古代中国——といったかのぅ…を滅ぼすくらい」


 夏にも傾国の美女がいたとされるが…末喜ばっきとかいったか? この話からすると、美女に化けたのではなく神として大暴れしたんだな(汗)


「次の王朝では、恐れられ優遇されたんちゃう?」


いんじゃったかのぅ。初代の王に、後宮でまつられたわ! わらわのおかげで王になったようなもんじゃからな」


 そいつ、〝りほ〟の尻尾になってなかったっけ?


 たしか、仙人のような力をもった伝説の王だったはず。


「お妃さま?」


 目を輝かせて聞いたのは、沙織ちゃん。お妃さまに興味があるらしい。


「うーん…仙女を祀る感じかのぅ。手を出したら祟られるから、祀っとけ。みたいな? 生贄も毎月捧げられていた」


「それで、後宮に住むようになったわけか。で、王様や皇帝をたぶらかしたりはしなかったのか?」


「言い寄ってくる奴は、何人かいたのぅ…。宿賃として、妃になったこともあったな。妲己とか、楊貴妃とかのぅ。何故か、王朝の末期の王が多かったかな? わらわのせいで国が傾いたり、滅んだりしたと言われておるのは、不愉快の極み! 唐が傾いた時は国中からわらわを糾弾する声が上がって、ほとほと嫌気がさした。それで尻尾を分身体として処刑させて、この国に来たというわけじゃ」


 いよいよ本題に入った。さて、平安時代の日本で〝りほ〟は、どんな暮らしをしていたのだろう?

 なんで、封印されることになったのだろう?


♠️

「ん?」

 紀香ちゃんが疑問の声を発した。


「どうしたの?」


「いや…楊貴妃が死んだのは、たしか紀元後750年ごろだったはず。うちのご先祖たる坂上田村麻呂や鈴鹿御前と知り合うなら850年ごろ。封印されたのが平安時代末期なら、1185年前後? 時代に随分ばらつきがあるよね??」

 紀香ちゃんが、博識だった。歴女?


「ふむ…うちのご先祖たる安倍晴明が活躍した時代も900年代から1000年代や」


「九尾の狐が化ていたと言われる玉藻御前は、鳥羽上皇の寵姫だから1100年代じゃないか? たしか鳥羽上皇の没年が1156年」

 俺が補足。


「えっと…〝りほ〟ちゃんが封印されるまで、400年前後時代が離れてますね」


 沙織ちゃんが驚いたように言った。


「これ、今回の動画で語りきれる? 〝りほ〟から話を聞いて、動画を改めて撮った方が良くない?」

 俺が提案する。


「むう…そうしようか。事前に話を聞いていたつもりやったが…中国から日本に来たくだりはまだ聞いてなかったからな。400年分の物語は、一回の動画で語りきれんやろ」


「うむ? ……400年くらい、あっという間じゃぞ!」


 〝りほ〟は、きょとんとした顔で言った。ダメだ…人間と時間の尺度が違いすぎる。



「………その言葉が、今日一、ホラーやわ。ぐだぐだで申し訳ございませぬ。この話は後日改めてアップさせていただきます。チャンネル登録、高評価よろしゅうおたの申し上げます⤴︎」


 動画の配信が終わり、俺達は改めて〝りほ〟の400年にわたる話を聞くことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る