〝りほ〟の過去

第49話奈良時代 穴門国

「わらわがこの国に来たのは、756年ごろ。そなたらの呼び方では、奈良時代の末期じゃ。流れついたのは、穴門あなとの国。今でいうと…」


「山口県だね」


 俺が答える。


「ふむ。唐と比べると田畑ばかりでひなびたところじゃった」


「やろうね」


「どんな生活をしてたの?」

 紀香ちゃんが興味深々で聞いた。


「唐で贅沢三昧した反動か、質素な暮らしじゃった」


「〝りほちゃん〟が!?」

 驚いたように聞き返したのは、沙織ちゃん。


「うむ。まぁ中国風の庭園や尼寺を建てたり、温泉をほりあてたり、歌舞音曲に勤しんだり、のんびり暮らしておったのじゃ。様々な薬を作って売っておったら、仙女と慕われもしたのぅ」


「ほぅ……」


 みんな、意外そうに〝りほ〟を見た。


「見返りは?」


 俺が聞いた。


「見返りか……それは、そなたらの認識では生き血かな? 献血程度の。本当は、精気じゃが。首から吸った」


「それは、妖怪扱いされなかった?」

 沙織ちゃんが素朴な疑問を挟む。


「いや……かえって、わらわに血を吸われたいという老若男女が殺到した」


「「「へぇー」」」


「まぁ、そんな生活も40年足らずで飽きた」


「そのあたりだと、平安京遷都があったね」

 これは、紀香ちゃん。


 鳴くよ《794》ウグイス、平安京!


「そうそう。新たな都ができたというので、どんなもんか? と見に行ったのじゃ」


「どうだった?」


 俺が聞く。


「うーむ……平城京と五十歩百歩といったところじゃったかな? 奈良時代に作られた奈良の大仏は見事じゃったが」


「長安に比べれば、小規模やったか」

 晴子が苦笑した。


「平安京では、どう暮らしたんだ?」 

 俺が質問する。


「穴門での暮らしと一緒じゃ。薬を作って売った」


「生き血とひきかえに?」

 これは沙織ちゃん。


「そう」


「陰陽師に滅されそうにならんかったんか?」


「うーん……それより夜這いがうざかったかな? 都一の美女ともてはやされて」


「なるほど」

 俺は苦笑した。


「うざすぎて、言い寄ってくるやつには課題を出すようにしたな」


「課題?」


「わらわと仲良くなりたければ、仏の御石もしくは、蓬莱山の玉枝・火鼠の皮衣・竜首の五色玉・燕の子安貝のいずれかを持ってきてたもれ? と」



「竹取物語やん!」


「まぁ、そんなこんなで、この国の後宮に入ったのじゃ」


 月には、帰らなかったらしい。


————————————————————————

        [あと書き]


 山口県長門市には、楊貴妃が流れ着いたという伝説があり、〝楊貴妃の里〟なるものがあります。

 そこには、楊貴妃が死んだ年齢・38歳にちなんで38メートルの楊貴妃像があるそうです。


 また山口県には、白狐が見つけたという温泉(湯田温泉)もあります。


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