第50話鳴くよウグイス平安京
「後宮に入ってからどうしたんや?」
「200年ほど退屈じゃったな。退屈のあまり、妖狩りなどをしておった」
「妖を狩りまくって、調理して、食べまくったんだろ?」
これを聞いたのは俺。
「ああ。美味かった」
じゅるりと、よだれを啜る〝りほ。〟
「平安時代末期には、何かあったの?」
紀香ちゃんが興味深々で聞いた。
「主の先祖……いや、前世と会った」
「「「「ええっっ——!!」」」」
俺の前世??
「詳しく」
身をのりだしたのは、沙織ちゃん。
♠️平安時代末期平安京(〝りほ〟視点)
都の夜は早い。日が落ちてまもなく、都は鎮まりかえる。
わらわは、寝静まった朱雀大路を歩いている。
世はさながら末世。御所が建ち、貴族の屋敷が並ぶこの通りも荒れ気味である。
街には疫病がたびたび大流行し、夜には百鬼夜行と呼ばれるほど、うじゃうじゃと妖が闊歩している。
野盗も多く、治安も悪い。
「今日は、何を狩ろうかのう?」
蛇だろうが、蜘蛛だろうが、鬼だろうが、狩り放題である。
狙い目は、美しい姫がいると噂されるような貴族の屋敷。そういった場所には、妖の大物が集まるのである。
まぁ、その美しいと噂される姫を喰うためだが。
(姫君を狙うような大物を始末してやろうとは、なんていう益獣なのじゃ。わらわは)
最近は、仙女とか神獣と崇めたてられることが少なくなっている。自分でも益獣と格下げするくらい。
妖を狩りまくっているために、妖としての力は以前より大分上がっているのだが。
(多少の贅沢くらい許されるじゃろう。酒を浴びるように飲むとか)
宮中で酒を浴びるように飲むと、女官にごちゃごちゃ言われるが……。
そんなことを考えながらそぞろ歩いていると……
ピーピーヒャララ、ピーヒャララ♪
なにやら、楽しげな笛の音が聞こえてきた。それに合わせて琴の音も聞こえる。
(ほう)
美しい姫がいると評判のお
こっちまで楽しい気分になった。
笛の音に釣られて、ふらふらとお大尽の屋敷に吸い寄せられる。
その音には、不思議な陰陽力が込められているようだ。
♠️
「「「わっはっはっ」」」
「そら、呑めや歌えや」
な、なんじゃ。これは……。
評判の姫君がいるであろう部屋の庭先。そこにはあかあかと灯りがともり、種々雑多な妖達がたむろしていた。
列挙すると…狐や狸の妖から、下駄や提灯、人形、化け猫や狛犬、蛇、蜘蛛、ヌリカベや河童、枕がえし、垢舐め、イッタンモメンやぬらりひょん……大物の鬼までいる。
それらの前で笛を吹いている一人の若い男。
下級貴族のような姿で髪型も無造作だが、えもいえぬ魅力に溢れている。
この男が奏でる笛も陰陽力に溢れてていて、妙に惹かれる。
琴は、部屋の中から聞こえる。この笛の音に惹かれて合奏したくなったのだろう。
「わらわも混じってよいか?」
男に声をかける。
「どうぞどうぞ。無礼講ですよ」
男の側にたたずむ幼女が返事をした。巫女のような格好をしている。
「そなた、式紙か?」
「あい」
(ふーん……見事な術じゃ)
普通の者は、わらわと喋っている幼女が式紙だとは気づくまい。
「これは、なんの祭りか?」
「お大尽様の大判振る舞い。いや……妖の調伏でございますよ。ここの屋敷は、妖が集まりますからね。あなた様も
「こ、これが調伏じゃと??」
どんちゃん騒ぎをしているようにしか見えないが…
「ふふふ。みんなで飲めや歌えやの大騒ぎをしているうちに自然と調伏されるのでございますよ。楽しく騒いだが、運のつき! さぁ、九尾の狐殿。いや、玉藻御前様もどうぞこちらへ」
「く……わらわの素性を見透かされた……」
わらわは、警戒して身構える。
尻尾は隠している。九尾とわかるわけが……。ましてや、玉藻御前じゃと?
本当に何者じゃ?? こいつ。
「ついでに、ここの姫様も主にほだされましたなぁ」
式紙たる幼女は、妖しげににんまりと笑う。
「そら、呑めや歌えや」
気がついたら……わらわも、どんちゃん騒ぎの輪の中に入り、飲んで騒いで眠り込んでしまっていた。狐にばかされたがごとく。狐は、わらわの方じゃというのに。
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