F先生の謎解き往復書簡集
@fkt11
金曜日の魔女
読者から 1通目
F先生、はじめまして。
私はK大学ミステリー研究会に所属する太田俊哉という学生です。先日、ミス研の先輩に勧められて、F先生の「へっぽこ探偵vs金曜日の魔女」を拝読しました。ミステリー読書歴十六年という先輩が「まあ読んでみろ、結末でひっくり返るぞ。とにかく読者の予想を軽く越えてくるから」と言って貸してくれたのです。
先輩、それはちょと盛り過ぎでは? と思って読み始めたのですが、いやあ、ほんとにびっくりしました。最後の最後までこの仕掛けにはまったく気がつきませんでした。そしてミステリーとしての面白さはもちろんなのですが、すべての登場人物がとても個性的かつ魅力的(考えてみればそれも伏線なんですよね)でした。
金曜日の夜だけ店を開く、ミステリアスで妖艶な女性占い師のムラサキ。
全身黒ずくめでスキンヘッドの凄腕泥棒、黒坊主。
教え子からやたらと面倒な相談事を持ち込まれるS学習塾の臨時講師、青山先生。
そしてへっぽこ探偵の藤松君(と助っ人のシンちゃん)。
こうして並べてみると探偵の藤松君が地味な印象ですが、ムラサキ、黒坊主、青山先生というクセのあるキャラクターたちを相手に一歩も引かず、最終的には驚愕の真相を暴いてしまうのですから侮れません。
先輩に聞いたところでは、他のへっぽこ探偵シリーズの藤松君はちょっと抜けているところがあり、読者をハラハラさせながら真相に迫っていくというのがお約束の展開なのだそうですね。でも今作の藤松君はどちらかというと思慮深く、シリーズタイトルにあるようなへっぽこぶりはあまり感じられませんでした。この話の中で探偵役というのであれば、青山先生の方がそれっぽかったです。教え子からの相談事を論理的に解決していく青山先生はとても頼もしくて、これなら藤松君はいなくてもいいんじゃないかと思っていました(中盤までは)。
また、盗みに入った先から絶対に盗難届を出させない黒坊主の頭脳的な泥棒作法や、ピンポイントで失せ物の在りかを言い当てるムラサキの神がかり的な占いの的中率など、前半から中盤にかけての展開がどんどん派手に大きく膨らんでいくのは読んでいて痛快でした。そして残りページが少なくなるにつれて、これらをミステリー的にどうやって回収し、終わらせるのだろうかという興味が高まり、終盤の二十ページほどは一気読みでした。
黒坊主はどのようにして盗みに入る家の隠された秘密を知ったのか。ムラサキが黒坊主の盗み出した秘密の品の隠し場所を言い当てるのは本当に占いの力によるものなのか。そして青山先生は、教え子の家庭のもめ事という面倒な問題に嫌な顔一つせず関わり、解決のために力を貸してあげるのはなぜなのか。
これらの謎や疑問が、藤松君によって突き止められたたった一つの真相によってすべて論理的に解明されてしまうのですから驚きです。先輩の言っていた「結末でひっくり返るぞ」は決して大げさではありませんでした。この真相を知った上でもう一度最初から読み返すと、初読のときとはまったく違う風景が見え、ムラサキ、黒坊主、青山先生の行動がギリギリのバランスを保ちながら描かれていることがよくわかりました。
もし私の周りに「へっぽこ探偵vs金曜日の魔女」を未読の人がいたら、ぜひ読むべしと勧めます。すでに読んだという人とは一緒にそのすばらしさを語り合いたいと思います。そしてなにより、この本を紹介してくれた先輩にはあらためてお礼を言おうと思っています。
先輩で思い出しましたが、ミス研の新歓コンパで自己紹介をしたとき、好きなミステリー作家として森村誠一と笹沢左保を挙げた私は、ミス研的に少々変わり種だったらしく、その場で先輩たちからどんな作品がお勧めなんだと質問攻めに遭いました。これには私の方が驚きました。ミステリー研究会という看板を上げながら、このお二人の作品をよく知らないなんてありえません。さすがに森村誠一の「高層の死角」は半分ぐらいの先輩がご存知でしたが(でも読んでいたのは二人だけです)、笹沢左保の「空白の起点」は全員が未読だったのです。正直なところ、「ミス研なのにそれでいいのですか?」と首をかしげてしまいました。
いや、まあそれはどうでもいいことでした。私もF先生の作品を未読だったので偉そうなことは言えません。いずれにせよ、F先生とその作品を紹介してくれた先輩には感謝です。
次は「へっぽこ探偵vs地獄のマジシャン」を読む予定です。今からとても楽しみです。
それではこれにて失礼いたします。
K大学ミステリー研究会 太田俊哉
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