ルート9

とある女性より 1通目

 F先生へ


 突然のお手紙で失礼します。

 私は京都市在住の専業主婦で、原田さおりと申します。

 このたびはF先生におたずねしたいことがあり筆をとりました。普段から手紙を書くことがないため、お見苦しい部分が多々あると思いますが、どうかお許し下さい。


 おたずねしたいのは、「ルート9」という小説の内容についてです。主人公の青年が失恋をきっかけに、国道9号線をひたすら自転車で走るということを思い立ち、その初日に出会った小学生の男子と鳥取を目指すというお話です。

 この小説は、今から二十年以上前に出版された「熱筆五人衆 其の三」という小冊子に載っておりました。小説の作者は秋津修太郎という方なのですが、主人の話によると、それはF先生の昔のペンネームで、F先生がプロの作家になられる前に使われていたはず、とのことでした。

 先月、この小冊子の巻末にあった連絡先のメールアドレスにメールを送ってみましたが、どうやらもう使われていないものらしく、一ヶ月待っても返信をいただけませんでした。それでもどうしても確かめたいことがあったので、小冊子を貸してくれた主人に相談したところ、現在のF先生が「へっぽこ探偵シリーズ」を出されている出版社宛に手紙を出してみてはどうかと言われましたので、この手紙を書いております。

 もしこの手紙がF先生のお手元に届きましたら、「ルート9」がF先生の書かれた小説なのか、それとも違うのかについて、同封した返信用封筒にてお返事を送っていただけませんでしょうか。主人の記憶違いで、F先生と秋津修太郎様がまったく無関係だということでしたら、変な手紙が届いてしまい申しわけありません。

 お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。


 T社の担当者様にはたいへん厚かましいお願いとなりますが、この手紙を同封の別封筒にてF先生の元へ届けていただきますよう、よろしくお願いいたします。


                          原田さおり

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