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 F先生、ついにゲットしました。もちろんK君の心理テストのことです。

 そのことでご相談があるのですが、まずは話を聞いて下さい。(読んでください)


 最近になってK君とはペアワーク以外でも、朝の始業前とか昼休み以外の休み時間とかに、ちょっとした雑談をするようになったんです。

 なんだ雑談かと思われるかもしれませんが、私にとっては大大大進歩です。だって考えてもみてください。雑談って、初対面の人やあまり親しくない人とはしませんよね。気をつかわない友達同士とか、それからほら彼氏とか(ぎゃー)とするものじゃないですか。

「あーあ、六時間目の数学って眠いよな」「そうだね」「もし寝ちゃってて、先生にばれそうになったら起こしてくれる?」「うん、わかった」

 これってほとんどつき合っているカップルの会話ですよね。寝る前に思い出してニヤニヤしてもいいですよね。あーもうこのままずっと席替えなんかなければいいのに。

 すいません。本題に入ります。

 先に書いたみたいにK君と雑談ができるようになったので、きのうの朝、「ちょっと前に、みんなと心理テストみたいなのやってたよね」って聞いてみたんです。K君はしばらく考えて、「ああ、あれね」と思い出してくれました。それってどんな内容なのかと質問をしたら、「やってみる?」って言われました。「やりたい!」「準備がいるから明日まで待って」ということになって、今日の社会の授業中にやることになりました。

「えっ、休み時間にやるんじゃないの」「休み時間にやると関係ないやつらがいっぱい集まってきてうっとうしいだろ」「うん、そうだね」(ぎゃー、一対一の心理テストだ!)「この席だったら俺たちの後ろには誰もいないから」「うん」(ぎゃー、俺たちって誰と誰のことっ!)「メモのやり取りしてもバレないじゃん」「うん」(メモのやりとりをするんだ。交換日記だ。ぎゃー)

 ぎゃーぎゃーうるさくてすいません。K君からもらったメモは大事にとってあるので、それを見ながら説明します。


 社会の授業が始まって、先生が黒板にヨーロッパの地図を書き出すと、K君が小さく四つに折ったメモをそっと私の机の左端におきました。


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次の単語のうち、気になるものを一つだけ選んで心の中で覚えておいて。

「プール」「青汁」「おじいさん」「ライオン」「チーズ」「宿題」「離れ業」「ジョギング」

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 あっと思ってK君を見ると、K君は口の前で人差し指を立てています。私はどきどきして、うんうんって二回うなずきました。なんだかよくわからないけど、ぱっと目についた単語を選んでしっかりと覚えました。しばらくすると同じ場所に二枚目のメモがおかれました。


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さっき覚えた言葉と一番関係がありそうな単語を選んで、心の中で覚えておいて。

「シャッター」「夏休み」「サーカス」「ピアス」「ハイジ」「宇宙船」「健康」「タイヤ」

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 私は一枚目のメモを見て、覚えておいた単語をもう一回確認し、二枚目のメモに書かれた単語の中から一つを選んでしっかり覚えました。


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今覚えた単語から連想できるものを次の中から選んで覚えておいて。

「マンション」「横断歩道」「ネクタイ」「ブランコ」「吹雪」「ラジオ体操」「マスカラ」「公衆電話」

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 これはすぐに見つかりました。


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最後の設問。今選んだ言葉と一番関係があると思う場所は、次のうちのどこ?

「中央バスターミナル」「佐藤酒店」「県立美術館」「すみれ美容室」「どんぐり公園」「市立病院」

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 これもすぐに見つかりました。

 さてさてどんな判定結果が出るのだろうと思ってK君からのメモを待ちました。でも次のメモはなかなか渡してもらえません。もしかしたら最後のメモで選んだ場所をK君に伝えるのだろうかと思ってそっとK君を見ると、K君はまた口の前で人差し指を立てています。私が最後のメモを指さすと指を立てたまま首を横に振りました。

 え? なになに?? どういうこと???

 頭の中はハテナマークだらけです。なにをどうすればよいのかわからないまま、もちろん社会の授業はまったく頭に入ってこないまま時間が過ぎて、終業のチャイムが鳴りました。もちろん速攻でK君に質問です。

「ねえK君、心理テストの続きは?」「続きなんかないよ。あれで終わり」「え、意味わかんないんだけど」「わかんなくてOK」「最後に私が選んだ――」「ストップ!」

 K君が立てた人差し指を私の目の前に突き出しました。

「この心理テストはね、なにを選んだかを絶対口にしたらだめなんだ。途中の単語は忘れてしまってもいいけど、最後に選んだものだけはしっかり覚えておくこと。それがこの心理テストのルール。これ以上の質問は受けつけない。わかった?」

 ルールはわかりました。でもやっぱり意味がわかりません。K君は設問を渡すだけで、その結果も聞かないでどうしようというのでしょう。私は最後に選んだ場所をしっかり覚えておいて、このあとどうすればいいというのでしょう。

 わからないことだらけなのに質問もさせてもらえず、すごくモヤモヤしたままだけど、これ以上しつこくするとK君に嫌われるかもしれないと思って、「わかった」と言いました。


 そして今、学校から帰ってきてモヤモヤした気持ちのままこの手紙を書いています。

 F先生、K君の心理テストっていったいなんだったんでしょうか。

 私はなにをどうすればいいのでしょうか。

 こんな質問はきっと迷惑だと思いますが、F先生にしかぐちぐち言えないんです。なんでもいいのでアドバイスをください。そしてこのモヤモヤをすっきりさせてくさい。


                                松島 璃子


 追伸

 F先生には心理テストで最後になにを選んだかを明かそうと思ったんですが、K君が「なにを選んだかを絶対口にしてはだめ」って言っていたのでやめておきます。口にするんじゃなくて手紙に書くのならいいじゃないかって、心の中で小さな悪魔君がささやきますが、そういうこじつけっぽいことはいやなのでやっぱりやめておきます。ごめんなさい。

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