09

 F先生、お返事が遅くなってすいません。

 そのいいわけと、あれから起こったできごとを合わせて書きます。


 F先生のお手紙に書かれていましたように、K君の心理テストの最後のメモにあった6つの場所はどれも実在します。その中で私が選んだ場所は「どんぐり公園」でした。(一つ前の手紙では選んだ場所はお知らせできませんと書いていましたが、これから先の説明もしにくいし、あれからいろいろあって書いても問題ないと思ったので書いちゃいます)

 F先生のアドバイスによれば、ここが私のラッキースポットということになります。ラッキースポットには今すぐ行くしかない! ですよね。ということで、さっそくF先生の手紙が届いた次の日の放課後にどんぐり公園に行きました。


 どんぐり公園はすべり台やブランコ、鉄棒、ジャングルジムといった遊具のほかに、砂場、ボール遊びのできる芝生広場、ベンチ付きの東屋、公衆トイレ、水飲み場なんかがあるかなり大きな公園です。私はこの公園があることは知っていましたが、中に入るのは今回が初めてでした。

 とりあえず全体を見ておこうと思って芝生広場をぐるっと囲んでいる遊歩道を歩いていくと、ガーッ、ガーッという音が聞こえてきました。どこから聞こえてくるのかなとあたりを見回すと、公衆トイレのとなりにコンクリートで舗装された場所があって、そこで5、6人の男の人がスケボーをしているのを発見しました。みんなヘルメットをかぶり、ひざとひじにプロテクターをつけている本格派です。ちょっと面白そうだなと思ったので立ち止まってしばらく見学をしていると、その中の一人がすごい勢いで遊歩道の近くを横切りました。

 あ、K君だ。

 ヘルメットをかぶっているのと、斜め後ろからしか見えなかったので顔ははっきりとはわかりませんでしたが、毎日すぐ近くから横顔を見ているので間違いないと思いました。

 私は思わず公衆トイレのかげにかくれました。社交的な女子だと「あ、K君、なにしてるの」なんて感じで声をかけたりするのでしょうけれど、私には絶対無理です。K君一人だったら、もしかしたらできたかもしれませんが、ほかにもスケボー仲間がいるんですよ。やっぱり無理です。その日はK君たちが帰るまで、公衆トイレのかげからこっそりのぞいていました。


 次の日、学校でK君にそのことを言おうかなと思ったのですが、トイレのかげにかくれて見ていたっていうのがはずかしくて言えませんでした。放課後にはまたどんぐり公園に行きました。その日はK君たちはいませんでした。次の日もいませんでした。でもその次の日はまた5、6人でスケボーをやっていました。その中にはK君もいました。このときは正面から顔を見たのでまちがいありません。(もちろん遠くからです)

 それから毎日どんぐり公園に通っているうちに、K君たちがスケボーをするのは火曜と木曜だということがわかりました。もうほとんどストーカーですよね。でもいいんですストーカーで。だってストーカーだから。


 学校でのK君はあいかわらず人気者で、昼休みにはたくさんの男女に囲まれているのですが、そのおしゃべりの中で一度もスケボーの話題が出たことがありません。そういえば、どんぐり公園のスケボー仲間は、これまで一度も学校で見たことのない人ばかりでした。

 まてよまてよ。私は考えました。それはつまり、この学校でK君がスケボーをやってることを知ってるのは私だけってことになるのでは? そのことに気づいたとき、私には確かに聞こえましたよ。タラリラリーンって効果音が。へへっ。

 それからも毎週火曜と木曜のどんぐり公園通いは続きました。そしてK君ウォッチをするのに最適なポジションも見つけました。そこは正面の方向が西の空になっていて、スケボーをするK君がくっきりとシルエットになって見えるのです。ときどきK君の横顔に西日が当たって、そのりりしい表情にキュンキュンできるのです。


 お待たせしました。ここからがいよいよ今回の手紙のクライマックスです。

 今日の六時間目の国語が自習になり、各自でワークブックをやることになりました。半分くらいの時間がすぎたころだったと思います。K君が小声で私の名前を呼びました。

「松島さん」「ん? なに」「最近、スケボーしてるとこ見にきてくれてるよね」「えっ」「スケボー仲間の間でさ、いつも見にきてるあのこは誰だなんだって、うわさになっててさ」「ご、ごめんなさい」「あやまんなくていいよ」「でも、こっそりかくれて見てたから」「え、あれでかくれてたの? いつも丸見えだよ」(ぎゃー)「それでさ、あのこはオレのクラスメイトだって言ったら、みんなに冷やかされちったよ」「ごめん、ほんとにごめん」「だから、あやまんなくていいんだって」「でも」「まあはずかしかったけど、ちょっとうれしかったしさ」「え?」(え?)「だから、また見にきてくれよな」「う、うん」(え?)(え?)(え?)「あとさ、このことは学校のみんなには内緒な」「うん」


 あー書いていてはずかしいです。顔が熱いです。うそみたいだけど本当の話です。自習が六時間目でよかったです。このあとも授業があったら、それもペアワークだったら、K君の顔なんて絶対見れないし、いろいろ無理だし、ほんとに助かりました。

 家に帰ってからもずっとドキドキしたままで、お風呂に入ってやっと少し落ちつきました。家族みんなが寝てしまって、自分の部屋でぼーっとしていたら、F先生にもらった手紙のことを思い出したんです。

 

 松島様が最後に選ばれた場所は、松島様にとってとても重要なポイントになると思われます。占い風に書けばラッキースポットです。


 書き写してみました。すごいです。本当に重要なポイントでした。超ラッキースポットです。でも、どうしてわかったんですか。私がなにを選んだのか書かなかったのに。不思議です。本当に占いみたいです。

 F先生にこのことを伝えなきゃと思って、あわてて手紙を書きはじめたら、過去最長の手紙になってしまいました。自分のことばっかり書いてしまってごめんなさい。


 もう夜中の十二時になってしまいました。なんだかぜんぜんねむくありません。でもねることにします。睡眠不足はお肌の敵なので。明日は火曜日だし。それではおやすみなさい。


 新作はまだまだ先になりそうですか。


                                松島 璃子

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