F先生の返信 1

   太田 俊哉様


 お手紙ありがとうございます。

 お便りの冒頭に、大学のミス研に所属されているとあったので、酷評を覚悟しながら読み進めました。もう十年以上作家をしているというのに、ミス研という単語を目にしただけで心拍数が上がるのですから我ながら小心者だと思います。

 幸いなことに、面白く読んでいただいたとのことでしたので、高まっていた緊張は大きな安堵へと変わり、五年ほど縮まりかけていた寿命もなんとか元に戻ってくれました。


 ご指摘をいただきましたように、今作の藤松君は脇役に徹しています。太田様の場合は「地味な探偵だな」程度の印象だったようですが、他のへっぽこ探偵シリーズを読んでくださった方であれば、かなり違和感を覚えられるのではないかと思います。

 作者の私にもその自覚はありましたから、今作をへっぽこ探偵シリーズとして出すことにためらいがありました。ですが、そこにはいろいろと大人の事情もあり、結局はへっぽこ探偵シリーズの中の一作として上梓することになった次第です。


 太田様が挙げておられた「高層の死角」と「空白の起点」ですが、実は私も「高層の死角」は読んでいたものの「空白の起点」は未読でした。あわてて調べて、これはぜひ読まなければと思い、ネットで古本を取り寄せ中です。「高層の死角」は書棚のどこかにあるはずなので、探してもう一度読んでみようと思います。あと、森村誠一といえば角川映画を思い出します。当時はまだ子どもだったので、記憶にあるのは映画そのものではなくテレビのCMですが、西條八十の詩を引用したキャッチコピーは今も耳に残っています。懐かしいですね。


 先輩作家に対して失礼な物言いになりますが、今の若い読者の方々がこのお二人の作家やその作品を新たに知る機会はあまりないだろうと思うのです。なのでミス研の先輩方がそれらの作品をご存じなかったことは仕方がないかな、というのが私の感覚です。(変わり種大いに結構ではありませんか。私はそう思います)

 あまり名の知られていない作家(私のことです)としましては、太田様とこのお二人の作家との出会いがどのようなものであったのかということに大変興味があります。もし差し支えなければ、太田様が森村誠一や笹沢左保の作品を読むようになられたきっかけをお聞かせ願えないでしょうか。


 最後に、「へっぽこ探偵vs地獄のマジシャン」もよろしくお願いいたします。


                             F拝

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