読者から 3通目

 F先生、数々のご助言とご忠告をありがとうございます。

 まだ私自身は謎の占い師との接触を持てていませんが、例のミス研の先輩がコンタクトを取ることに成功しました。この手紙を書いている前日のことです。

 占い師の元から戻ってきた先輩は、少しぼんやりとした様子で、どうでしたかと聞いた私に、「噂は本当だった」「予想以上にすごい人物だった」「あれは占いというレベルではない」「パーフェクトな未来予知だった」等々、やけに思わせぶりなことを口にするのですが、具体的にどんなことがあったのかは教えてくれないのです。それじゃあよくわかりませんと文句を言うと、「そんなに気になるなら自分で直接確かめてこい。行けば俺の言ってることの意味がわかるから」と返されました。

 その通りですよね。仮に先輩がもっとくわしく教えてくれたとしても、どうしても物足りなさは残るでしょう。というわけで、私も占い師の元に出向くことにしました。今、先輩に仲介をお願いしているところです。


 話は変わって、ホット・リーデイングという言葉を教えていただきましたのでさっそく調べてみました。徹底的な事前の情報収集というのはまさにムラサキのやり口ですね。このホット・リーディングを調べる中で、コールド・リーディングという言葉があることも知りました。事前準備はせずに巧みな話術で相手から情報を聞き出していく手法とのこと。ムサキの場合は、これら正反対の二つの手法を組み合わせて、金曜日の魔女という占い師を演じていたということになりますでしょうか。

 こうして占いの舞台裏的なことを教えていただいたことで、「金魔女(勝手に略称を作りました)」をさらに深く楽しむことができました。


 青山先生が、生徒の悩み事相談から家庭内の秘密を聞き出す。(たとえば一話目の芝山家にある古びた仏像は、生徒の父親が闇ルートで入手した重要文化財級の盗品らしい)

 黒坊主は芝山家に忍び込み、青山先生が聞き出した仏像と現金を盗み出す。いったん盗み出した仏像は芝山家の庭にある物置の奥に隠し、現金のみを持ち去る。

 ムラサキはあたかも占いで言い当てたかのような演出によって、黒坊主が仏像を隠した場所を相談者――芝山家の父に告げる。

 こうして仏像は芝山家に戻り、結果的には現金のみが盗まれたことになる。

 この先、黒坊主が警察につかまると、取り調べの中で、盗みに入った芝山家に盗品と思われる仏像があったと証言するかもしれない。芝山家としてはそのような事態になることだけは防がなければならない。よって芝山家から警察に盗難届が出されることは絶対にない。

 つまり、M町で続発する「表沙汰にならない現金盗難事件」の背後には、青山先生、黒坊主、ムラサキによる連係プレイがあったのだ。

 そして、三者の連携にはさらなる驚愕の真相があり――

 おっと、これではキリがありません。この辺でやめておきます。そもそも作者のF先生に、F先生の作品を解説するって頭がおかしいですね。くどくど書いて申しわけありませんでした。


 さて、こうして長々と手紙を書いているところに、つい先ほど先輩から連絡が入り、謎の占い師と一週間後に会うことになりました。

 ご安心ください。F先生からいただいた助言をしっかり守り、無理はしないつもりです。そしてどんな人物で、何がそんなにすごいのかをしっかり報告させていただきます。

 では、行ってきます。


                     K大学ミステリー研究会 太田俊哉

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