K君から 3通目

 F先生へ

 確認しました。小森裕子さんの長男夫婦宅では本当に柴犬が飼われていました。こっそりのぞいた庭先に「黒い柴犬」がいるのを見た瞬間、両腕に鳥肌が立ちました。


 家に帰って、さっそくF先生にこのことを報告しようと手紙を書きかけたとき、ふと思いました。

 小森裕子さんは当然この犬のことを知っているはずだよな、と。

 だとすれば、柴犬がマーキングをする様子が防犯カメラに映っていたという祖父の報告を受けたとき、長男夫婦が飼っている柴犬のことをまず思い浮かべたのではないだろうか。いや、それ以前の、パンジーが枯れた原因が小便だとわかった時点(祖父に話をするよりも前)で、すでに……。

 祖父から文芸季報をもう一度借りて、「私のシロちゃん」を読み返しました。

 そして想像してしまったのです。

 祖父が、「今後は犬が小便をかけることはないから、またプランターで花を育てても大丈夫ですよ」と告げたとき、小林裕子さんが柔らかな笑みを浮かべるのを。


 すいません、変なことを書いてしまいました。

 新作の執筆、がんばってください。


 追伸

 祖父はその後も元気にやっています。F先生に送るのだと言って、「へっぽこ探偵vs擬態人間」の感想を書いているみたいです。そのうち、また長い手紙が届くと思いますが、お時間のあるときに目を通してやってください。


                             後藤和哉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

F先生の謎解き往復書簡集 @fkt11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画