筆まめなミステリー作家のF先生。どれくらい筆まめかというと、読者からの感想のお手紙にも丁寧に返事を出すぐらいだ。ミステリー作家ということもあって、小説の感想だけではなく身の回りで起きた奇妙な事件の相談が送られることもある。
本作はそんなF先生の読者との手紙のやりとりがそのまま小説になっている。
完璧な未来予知を行ういかにも怪しげな占い師から、少年探偵団に憧れる小学生のほのぼのとした活動報告、F先生が昔書いた小説に関する質問など、その内容は実にバラバラ。
そのいずれの内容に関してもF先生はこまめに返信をする。読者の疑問には丁寧に答え、時に失礼なことを書かれてもやんわりと受け止め、文面だけでもF先生の人柄がしっかりと浮かんでくるのが良い。
ミステリー作家だけあって読者から持ちこまれた事件には鮮やかな回答を見せる……と思いきや、時にはF先生の推理を大きく超えた結末となることも……。F先生と読者の手紙が紡ぐ5つの短編をお楽しみあれ。
(「奇妙な犯罪」4選/文=柿崎 憲)
へっぽこ探偵藤松君シリーズで、(たぶん本人が思っている以上に)ファンに愛されているミステリー作家のF先生。彼の手元にファンレターに乗せ、読者から届けられる謎を、手紙のやりとりだけで解決していく楽しい短編集です。
書簡体の面白さはもちろんのこと、大学のミス研の部員から少年少女探偵団を結成した小学生、三十年以上、とある疑問を胸に秘めてきた専業主婦などなど。様々な顔を持つ相談者から寄せられる謎にはひとつとして同じ類のものがなく、最後までとても面白く読めました。
私はがっつりトリックに焦点を当てた物語(ミステリー)が好きです。でも、この作品のように謎解きと人間ドラマがひとつに溶け合い、読者の心に何かしらの感情を呼び覚ましてくれる物語も同じぐらい大好きです。
どの物語もおススメですが、特に第三話は胸に響きまくりでした。私はこの感情のウェーブを、ぜひあなたにもお届けしたいのです。