10
松島 璃子様
今日は朝からハッピーなお手紙が届き、私まで幸せな気持ちになりました。
お手紙のクライマックス部分として書かれていたK君との会話は、読んでいる私まで恥ずかしくなってしまいました。今回のことでお二人の距離がぐっと縮まったのではないでしょうか。良かったですね。この手紙が届く頃にはさらにハッピーなエピソードが生まれていることでしょう。
と、お手紙はここまでで終わりにしておくべきだと思う一方で、今後の松島様のいざというとき(どんなときなのかは私にもわかりませんが)のために、あることをお伝えしておく方が良いのではないかとも思い、しばし悩みました。
まわりくどいですね。悩みましたと書いている時点で、お伝えすることに決めているわけですから、ここから先はさっさと話を進めます。
お伝えしたいのはK君の心理テストの狙いについてです。実際の心理テストで説明いたしましょう。
設問は全部で四回出されました。それぞれの設問で示された単語を以下に並べてみましょう。
「プール」「青汁」「おじいさん」「ライオン」「チーズ」「宿題」「離れ業」「ジョギング」
「シャッター」「夏休み」「サーカス」「ピアス」「ハイジ」「宇宙船」「健康」「タイヤ」
「マンション」「横断歩道」「ネクタイ」「ブランコ」「吹雪」「ラジオ体操」「マスカラ」「公衆電話」
「中央バスターミナル」「佐藤酒店」「県立美術館」「すみれ美容室」「どんぐり公園」「市立病院」
さてここで、一つめの設問で「ライオン」を選んだとしましょう。二つめの設問では「ライオン」と一番関係がありそうな単語を選ばなければなりません。これはどうやら「サーカス」のようです。「サーカス」を心の中に留めたまま三つめの設問に向かいます。この中で「サーカス」から連想できるものは「ブランコ(空中ブランコ)」ですね。そして最後の設問で「ブランコ」といえば「どんぐり公園」となります。
おや? 今回私が適当に選んだ「ライオン」は、松島様と同じく「どんぐり公園」にたどりつきましたね。もしかして松島様も最初の設問で「ライオン」を選ばれたのでしょうか。
念のため「青汁」でも試してみましょう。
「青汁」→「健康」→「ラジオ体操」→「どんぐり公園」
また「どんぐり公園」でした。
次は「おじいさん」で試します。
「おじいさん」→「ハイジ」→「ブランコ」→「どんぐり公園」
「プール」→「夏休み」→「ラジオ体操」→「どんぐり公園」
もうおわかりでしょう。一つめの設問でどの単語を選んでも、最後は必ず「どんぐり公園」にたどり着くのです。この心理テストを受けている人は選択肢を自由意思で選び続けているつもりなのですが、実はその判断はすべてコントロールされていて、最後に出題者の思い通りの場所へと導かれてしまいます。このような技法をマジシャンズセレクトあるいはマジシャンズチョイスと呼びます。
さてここで思い出してください。この心理テストはいったい誰が、誰のために作ったものだったでしょうか。
おっと、これ以上の説明は野暮ですね。
長々と失礼いたしました。
F拝
幸福指数120の読者様
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます