S氏から 3通目

 拝啓

 F様、判明しました。

 犬でした。オスの柴犬が小便をかけていました。


 それにしても驚きました。F様がお手紙の中で推測されていたことは、ほとんどそのまま当たっていたのです。

 今さらながら思い出してみると、F様へのご相談の手紙では、裕子さん宅のことやプランターの置き場所について何もお知らせしていませんでした。立ち小便の犯人を突き止めたいのでご協力をとお願いしておきながら、推理に必要となる情報を何も書いていなかったのです。

 そんないい加減な手紙であったにもかかわらず、立ち小便という情報だけから、裕子さん宅の様子をほぼ正確に言い当てられ、さらにはお向かいの家の防犯カメラがある可能性にまで言及されました(本当に防犯カメラが設置されていました)。そして幸運にもカメラの撮影範囲内にプランターが置かれていたのです。

 その防犯カメラは過去十日間の映像を残しておけるもので、返事をいただいたその日のうちに事情を話して確認させてもらったところ、残っていた映像の最初の二日分に、一匹の柴犬が片脚を上げてプランターに小便をかけている様子が録画されておったのです。映像を確認するのがあと二日遅ければ何も映っていないところでした。


「プランターに小便をかけたのは人間ではありませんでした。犬でした。確認できた二日間とも午後十一時過ぎという時間帯でした。小便をするときは片脚上げのポースで、しっぽがくるっと巻いておりましたから、おそらくオスの柴犬でしょう」


 そのように裕子さんにお伝えしたところ、そうだったのですかと、納得されたたご様子でした。

 毎日同じ所におしっこをするのは犬の習性ですから仕方がないことです。そもそも公道にはみ出すような形でプランターを置いていたのが悪かったのですとおっしゃって、今後は気をつけますと、なぜか私に謝られてしまいました。

 これらの言動からもわかっていただけると思うのですが、裕子さんは上品かつ謙虚な方なのです。


 私からの報告は以上となります。

 この度は適切なご助言をいただきありがとうございました。


                                 敬具

                              後藤昭一拝

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