第43話 ユーリカリアの剣


 フィルルカーシャの刃渡りの短い剣を、焼き入れで反らす。


 その反りを確認して、カインクムは、満足した様子を見せた。


 短めの剣でも思ったような反りを、焼き入れで作れたことを満足していた。


 フィルルカーシャの柄の芯の長い刃渡りの短い剣を、また、作業台の上に並べておいたのを見ていた。


 そして、最後に残ったのは、ユーリカリアの剣となる。



【ユーリカリアの剣】


 刃渡り 65センチ、刃幅 8センチ、柄 50センチ



 ユーリカリアは、刃幅を他のメンバーとは違い、とても刃幅の広い剣を要求してきた。


 刃幅を広くしたことで、刃の厚みも厚くした。


 重さが、ジューネスティーンの作っていた剣より、かなり重くなるが、ドワーフであるユーリカリアなら、その重量が増したとしても、十分に使いこなせるだろうと考えていた。




 ただ、カインクムとしたら、この刃幅の剣は、今後の商売には、可能性を見出していたのだ。


 一般的な斬るための剣は、折れないために、刃幅も厚みも厚いのだ。


 そんな剣を使っていた冒険者からしたら、ジューネスティーンの刃幅は、不安に思う可能性が高いのだ。


 要するに、受け入れられない可能性が高いとなれば、どんなに良いものでも売る事ができない。


 イメージは、大変重要なファクターになる。


 そうなったら、このユーリカリアの剣を中心に販売を始めて、それと一緒にジューネスティーンのサイズの剣を置いておく。


 お客様である冒険者に選ばせるのだが、最初は、選びやすいものを置いておく事で、販売促進を図ろうと思ったのだ。


 最後にユーリカリアの剣を焼き入れするのは、その見極めを確実に行うことも含めて、最後に回したのだ。


 徐々に刃幅を熱くしていったことで、刃幅の影響を見極めて、一番売れ筋となりそうな剣の作り方を見極めようと思ったのだ。


(できれば、刃幅6センチのものを最初に行ってから、ユーリカリアの剣に着手したかったが、万一、この様子をユーリカリアに見られたら、なんで自分の剣が後回しなのかと、詰め寄られそうだからな。 今回は、4センチから一気に、8センチになるが、仕方がないだろう。)


 カインクムは、最後にユーリカリアの剣を手に取ると、刃幅の狭い方から順番に並べてある、今までに焼入れした剣を眺める。


 その反りを確認すると、ユーリカリアのための剣を、側面から眺めた。


(この剣は、刃幅が広いぶん、刺す事はないだろ。 それにユーリカリアは、今まで戦斧を使っていたのだっから、とにかく斬るに徹するだろうな。 だったら、この剣は、迷わず、全体的に綺麗に弧を描くように、反らせた方がいいだろう)


 カインクムは、先ほどのフィルルカーシャの剣よりは、直ぐにイメージが出来たようだ。


 ユーリカリアの剣を、わずかばかり眺めただけで、泥を塗り始めた。


(このサイズになると、今までの剣より反りは大きくないだろな。 峰側に塗る泥の量は可能な限り厚くして、反りを大きくさせよう)


 カインクムは、真剣な表情で剣に泥を塗っていく。




 泥を塗る作業が終わり、表面の泥の乾き具合を確認して竈門に入れる。


 吹子を使って、剣の温度をゆっくりと上げていく。


(今回は、刃幅が広くなったぶん鎬の部分の厚みが、他より厚みがあるからな。 芯の温度にも気をつけよう)


 焼き入れの温度は、決まっており、温度が高くても低くても思ったような焼き入れは上手くできない。


 表面の赤外線を検知して温度測定するような温度計や、熱電対により計測しているのではないので、カインクムは、長年の経験と感によって、表面の鉄の焼かれた色で判断することになる。


 微妙な温度を自分の目だけで確認して、判断するのだ。


 今回は、少し慎重に温度を上げる。


 そして、上がった後も、吹子を使って、しばらく、剣の温度が安定するように様子を見つつ、吹子の空気の量を調整しつつ剣を見る。


 剣を見ているカインクムだが、正確には剣の温度を見ているのだ。


 赤く熱せられているのだが、その温度を様子を見つつ、色が安定しているか確認しているのだ。


(そろそろ、いいだろう)


 カインクムは竈門から、剣を取り出すと水桶の中に、剣を一気に入れる。


 水桶の水が、熱せられた剣が入れられると、剣の周辺から一気に水蒸気が発生して、水が蒸発する音と、その蒸発した水蒸気が泡となって、水面に上がってくる音とが混ざり合って聞こえてくる。


 しかし、それも、剣の温度が沸点以下になれば無くなるが、やはり、芯の温度まで、水の沸点以下に落ちるまでには、時間がかかる。


 一時の、物凄い勢いの水蒸気の出方は終わっても、所々から、徐々に小さな泡が出ていた。


 それは、泥の隙間にあった空気だったのかもしれないが、わずかに小さな泡が出ているが、それも直ぐに終わった。


 カインクムは、剣の温度が、水の沸点以下に下がったことを見ると、剣を水桶から上げる。


 そして、作業台の上に持っていき、他の4本の剣と並べて、ユーリカリアの剣を置く。


 カインクムは、少し離れて、他の4本と、今の1本の剣を見比べる。


「うん。 いい出来だ」


 その5本の剣を眺めつつ、自分の考えていた反り具合になったのを確認する。


 その出来具合を確認するように、最終工程に進んでいくのだ。

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