第51話 フィルルカーシャの剣とヴィラレット


 今後のことを考えると、戦斧を使っていたユーリカリア、槍を使っていたフェイルカミラは、前衛として剣で戦うことになるので、今までと手に持つ獲物が変わってしまったことで、戦い方が変わってくることを念頭に入れて、ヴィラレットに訓練方法まで考えさせていた。


 そして、シェルリーンにおいては、突破された場合の自己防衛手段としての剣となっており、魔法職のウィルリーンと、一緒に防衛目的の剣の扱いとなった。


 ただ、そこで1人、フィルルカーシャが、浮いてしまっていた。


 フィルルカーシャは、今までの剣をベースにして、ほぼ同じ形となっており、使い方の違いは、ほとんどなく、重さやバランスが慣れてしまえば、それで終わりなのだ。


 ただ、フィルルカーシャには、どうも、周りに置いてけぼりを食らったような気分になっていた。


(えっ!  私は、今までと違いがほとんどないから、放置なの)


 それについて、フィルルカーシャは、微妙な面持ちで、他のメンバーを見ていた。


「ヴィラ?」


 小さな声で、ヴィラレットを呼ぶのだが、周りに気を取られて、ヴィラレットは気がついてくれない。


 フィルルカーシャは、自分だけ疎外感が強くなったようだ。


「ヴィラーッ」


 大きな声で、フィルルカーシャは、ヴィラレットを呼ぶと、気がついたヴィラレットが、フィルルカーシャを見た。


「カーシャ姉さん。 どうかした?」


「どうかしたじゃないわよ。 私にも、何か教えてよ」


 寂しそうな様子で、フィルルカーシャは、ヴィラレットにお願いしてきた。


「うん。 だけど、カーシャ姉さんは、今までと形も変わらないから、私が教えるまでもないと思うけど、……」


「そんなことない。 きっと、私にも何か、あるはずだから、私の剣も試し斬りしてみてよ」


 フィルルカーシャは、半分、嘆願するように言ってきたので、仕方なさそうにフィルルカーシャの剣を受け取った。


「まあ、私の剣とは違うけど、試してみるわ」


 ヴィラレットは、断れそうもないと思ったようだ。


(ここまで、柄が長いのは、私も扱ったことがないから、アドバイスと言われても、ちょっと困るのよね)


 ヴィラレットは、フィルルカーシャの剣を持つと、持つ位置を、色々と変えてみて、バランスを確認した。


(私の剣と同じように構えたら、少し、先端の方が重いのよね。 それに、刃渡りは短いけど、全長は、私の剣より長いわよね。 それに、剣の反りは、短いわりに、結構、反っているわね。 だったら、振り回すだけで、案外、簡単に斬れるのかも)


 ヴィラレットは、バランスを考えつつ、持つ位置を変更していた。


「うん。 面白いかもしれないわ」


 フィルルカーシャの剣を見つつ、ヴィラレットはつぶやいた。


「ちょっと、試してみるわね」


 そう言うと、ヴィラレットは、試し斬りの方ではなく、誰も居ない方に歩いていった。


「ちょっと、ヴィラ。 どこに行くのよ」


「え、ああ、少し振ってみたいので、ちょっと周りに近寄らないでくださいね」


 フィルルカーシャが、心配そうに聞くと、ヴィラレットは、フィルルカーシャの剣を眺めつつ、誰もいない方に移動していた。


(柄の長さをうまく利用する方法か、……。 時には、剣のように使って、時には、槍のように使うのか。 持つ位置を上手く使って、遠近を調整できるのね)


 ヴィラレットは、メンバー達から離れた場所に行くと、槍のように構えるが、すぐ上下に振り始める。


 槍は、突くと引くの繰り返しになるのだが、薙刀型なので、基本は、斬るようになる。


 本来であれば、2メートルか、3メートルの長さとなるのだろうが、フィルルカーシャの身長から、短い柄を採用しているのだ。


 ヴィラレット自身は、165センチと、一般的な身長なので、柄の長さが、1メートルというのは、微妙な長さなのかと思ったようだが、何だか、色々な、型を試し始めていた。


(何だか、この柄の長さ、それに両サイドのグリップが有るから、それを上手く使って、刃の位置を自由に変更できるわ)


 上から振り下ろす、横に振る、斜め上から袈裟斬り、そして、返して、斜め上に逆袈裟に切り上げる。


 魔物との対戦を思い出しつつ、ヴィラレットは、シャドーを繰り返すように、フィルルカーシャの剣を振り回した。


 その表情は、何だか、嬉しそうに自分の思ったように振り回していた。




 それを持ち主となる、フィルルカーシャは、その様子を、ただ、みているだけだった。


 数分が過ぎると、ウィルリーンが気がついたのか、フィルルカーシャの横に移動してきた。


「ねえ、何かあったの?」


「うーん。 ヴィラが、私の剣を振り回しているんです。 何かの演舞なのでしょうか?」


 それを聞いて、ウィルリーンは、ヴィラレットを見た。


(ヴィラったら、新しいおもちゃをもらったみたいだわ。 あれ、きっと、さっきのカーシャの話を聞いて、何か型をと思ったのだけど、使っているうちに、面白くなってしまったみたいね)


「ヴィラーッ! そろそろ、演舞は終わりにしてーっ!」


 ウィルリーンは、ヴィラレットに声をかけるが、ヴィラレッとは、全く聞こえてなかったようだ。


 ウィルリーンに声をかけられても、全く動じる様子もなく、ただ、剣を振るっていた。


「もう、仕方がないわね」


 ウィルリーンは、そう言うと、斬ってしまった棒を置いてあるところに行くと、手頃な棒を手に取った。


 そして、戻ってくると、その棒をヴィラレット目掛けて、思いっきり投げつけた。


「えっ!」


 その様子を見ていたフィルルカーシャが、思わず声を上げるが、ウィルリーンの投げた棒は、クルクルと回転して、ヴィラレットの胸の辺り目がけて飛んでいったのだ。


「当たる!」


 フィルルカーシャが、声を上げるが、当たると思った瞬間、ヴィラレットの剣が、ウィルリーンの投げた棒を、振り回していた剣で跳ね上げるようにして躱した。


「うーん。 さすがだわ」


「何がさすがだわですか! 私はびっくりしました。 絶対に当たると思いましたよぉ」


「え? だって、ぶつけるつもりで投げたんだから、当たり前でしょ」


 ウィルリーンは、ヴィラレットの剣技に感心したようだが、その一部始終を見ていたフィルルカーシャは、肝を冷やしたようだ。


「だって、もっと近づいたら、ヴィラに斬られそうだし、こっちに振りむっかせるなら、これが一番いいかと思ったのよ」


「まあ、そうですけど」


 確かに、剣を振り回しているヴィラレットに近づいたら、自分の身の危険を考えなければならないと、フィルルカーシャも思っていたのだが、まさか、斬れた棒を投げつけて、気がつかせるとは思わなかったので、その行いにフィルルカーシャは納得できずにいるのだ。


 そんなフィルルカーシャを気にすることなく、ウィルリーンは、ヴィラレットに、こっちに来るように手招きをしていた。


 剣の演舞を終えて、ヴィラレットが、フィルルカーシャとウィルリーンの方に来る。


「どうかしましたか?」


「ああ、ヴィラ。 あなた、そのカーシャの剣は、どうだった?」


「ええ、とっても、面白いです。 思わず、以前、戦った魔物をイメージして振り回してしまいました」


 それを聞いて、ウィルリーンは、やっぱりといった表情をした。


「なんて言うんですか、この柄の長さを上手く利用すると、とても扱いやすいんですよ。 剣もですけど、この刃渡りの短さと、柄の長さで、私の剣とも、きっと、対等に渡り合えると思います。 今まで、気にしてなかったのですけど、このタイプも面白いです」


「そう、それはよかったわねえ。 それで、この試し斬りは?」


 そう言うと、ヴィラレットは、持っていた棒切れを二つ見せた。


「さっき、飛んできたこれでどうですか?」


 その棒は、綺麗に二つに斬れていた。


「何だか、突然、後ろから飛んできたので、思わず、跳ね上げてしまいました」


「さすがね。 強すぎず、弱すぎず、丁度良い力加減で、跳ね上げつつ斬っていたのね」


 ヴィラレットは、虫でも飛んできたように言うと、それを、当たり前のように言うウィルリーンだった。


「何、言ってるですか! 私は、ヴィラに当たると思いましたよ。 あんなに強く投げたんだから、ヴィラが怪我でもしないかと思いましたよ」


 フィルルカーシャが、少し涙目で訴えた。


「大丈夫よ。 ヴィラなら、簡単に躱すから」


「ん? ああ、これ、ウィル姉が、投げたのですか。 どおりで、正確だと思いました」


 ウィルリーンもヴィラレットも、大して気にする様子もなく、フィルルカーシャに応えていた。


「何だか、私が、バカみたいです」


 そんな態度にフィルルカーシャは、少し拗ねた様子を見せていた。

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