第52話 試し斬りが終わると
「ヴィラ、それで、その剣は、どうなんだ? カーシャに、何か、アドバイスできることは、あったの?」
「あっ!」
ヴィラレットは、自分の世界に入ってしまったので、フィルルカーシャに言われたことを忘れて、演舞に夢中になっていたようだ。
「そんな、酷いです」
2人の会話を聞いて、フィルルカーシャは、がっかりした様子になった。
「あ、でも、カーシャ姉の剣は、とっても使いやすかったですよ。 刃の出し入れを上手く使えば、遠近の敵の間合いを使い分けらるから、もっと長い、そう、3メートル程度の長さの方が、面白い使い方ができると思うわ」
「ヴィラ、それは、カーシャを見て言っているのか?」
そう言われて、ヴィラレットは、しまったという表情をした。
そして、ヴィラレットは、恐る恐る、フィルルカーシャを見ると、その表情は沈んでいた。
「ヴィラ、ひどい」
フィルルカーシャは、ボソリと漏らした。
「あ、でも、槍のように構えて、振り上げる時、手前の手を調整して、相手との距離を調整できるし、てこの原理で、振り下ろす速度を変えられるし、それに、反りを強く入れてもらっているから、振り回すだけで、斬れ味もいいはずです。 きっと、カーシャ姉の手足となってくれます」
「それで、何か、私に合う型とかはどうなのよ」
ヴィラレットは、答えに詰まった。
「ごめんなさい」
「ひどいです。 私の剣は、遊べる程度だったってことじゃないですかぁ」
フィルルカーシャは、少し膨れたように言った。
「まあ、ヴィラだって、カーシャの剣は、得意な武器じゃないんだから、はいそうですかって、教えられるなんてことは無いわよ。 私だって、この後、みんなの剣に付与魔法を付けようと思っているけど、まだ、まともなイメージができてこないのよ。 そんなに簡単にできたら、私たちは、ジュネス達のパーティーより、圧倒的に強くなっているわよ」
「ごめん、カーシャ姉。 これから、時々、一緒に訓練するから、それで、カーシャ姉に合う型を探していくから、もう少し待ってね」
「そうよ。 もう少しだけ、ヴィラに時間をあげてくれないかしら」
フィルルカーシャは、黙り込んでしまった。
ヴィラレットと、ウィルリーンは、困った様子でフィルルカーシャを見た。
その思いがフィルルカーシャにも分かったようだ。
「うん。 これからは、一緒よ。 それで、一緒に考えてね」
それを聞いて、2人はホッとしたようだ。
そんな3人にユーリカリアが、声をかけてきた。
「おーい、そろそろ、店に戻るぞ」
黙って、ユーリカリア達の試し斬りを見ていたカインクムは、ホッとした様子で、ユーリカリアの話を聞いていた。
それは、何か、不具合が無いかと考えていたからだ。
試し斬りをして、その時に何かあれば、買う側は、必ず、注文を付けてくる。
それが有れば、場合によっては、また、新たに作り直しとなることもある。
特に、今回は、前回と違って、一度、ヴィラレットの剣を試しているのだから、その時のイメージが残っているはずなのだ、そのイメージが、自分の発注した剣にも有るのかと比較になるので、今回、鍛えた剣が、前回のヴィラレットの剣に劣ったとしたら、何らかのクレームが入るはずなのだ。
それが、今まで、何もなく、終わってくれたことが、カインクムには、とても喜ばしい事なのだが、確定するまでは、気が気ではなかったのだ。
ユーリカリア達は、新しい剣の試し斬りだと喜んでいたのだが、カインクムは、誰かが、試し斬りをするたびに、何か問題が出ないかと、ヒヤヒヤしていたのだ。
それが、何事もなく終わったので、ホットしたのだ。
「カインクムさん。 今日は、本当にありがとう。 皆、気に入ったようだ。 あとは、支払いを済ませてもらうよ」
「ああ、ありがとう。 気に入ってもらえて、よかったよ」
「どうしたんだ。 表情が硬いぞ」
「当たり前だ。 ここで、何か、ダメ出しが出るかと思っていたんだ。 あんたの、掛け声がかかるまで、ヒヤヒヤモンだったんだ」
それを聞いて、ユーリカリアは、そんなものなのかと、カインクムの言葉を聞いていた。
「ああ、大丈夫だった。 ヴィラの剣と遜色ない出来だったよ」
「そうですよ。 とても、扱いやすいですよ。 私も今まで、いざという時用に、短剣を持っていましたけど、こんなに、軽くなかったですよ。 長い剣が欲しいと思いましたけど、重さが有るから、諦めていたんです。 でも、ヴィラの剣を使った感じから、とても扱いやすかったので、私も長い剣を持てると思ったんですから、本当にありがたかったんですよ」
「シェルは、剣の良し悪しがわかったのですね。 てっきり、流されていただけだと思ってました」
「ちょっと、カミラったら、私が何も考えてないみたいな事言わないで欲しいわ」
フェイルカミラのツッコミにシェルリーンが、食って掛かったのだが、フェイルカミラは、全く動じる気配はなく、シェルリーンを見下ろしている。
「シェル。 お前は、弓以外は、雑過ぎるから、周りから、そう思われているんだ」
「リーダーまで、酷いです。 なんで、そうなるんですか!」
(そりゃ、そうだろう。 6姉妹なんてなったら、大体、下から2番目は、自由奔放だろう。 あ、でも、見た目なのか。 下からヴィラ、シェル、カーシャ、ウィル、カリアときて、一番上が、カミラか。 だが、カリア、ウィル、シェルは、ドワーフとエルフだから、もっと年上なのだがな。 まあ、見た目は、そんなところだとなれば、シェルの自由奔放な感じは、うなづけるように思えるのだがな)
3人の口喧嘩を、カインクムは、快く思っていた。
「もう、また、シェルが、おバカなことを言っているの」
ヴィラレットの演舞を見に行った、ウィルリーンが、シェルリーンを、困った妹でも見るように言った。
「違います。 2人が、私の事、雑だとか、言うんです」
「ふーん」
ウィルリーンは、全く気にしてない様子で、聞き流すと、それがシェルリーンには、気に障ったようだ。
今度は、ウィルリーンに何やら訴え出した。
後ろに居た、ヴィラレットと、フィルルカーシャは、少し大回りをして、カインクムの後ろの方に行った。
シェルリーン達の口論の輪の中に入りたくないと思ったようだ。
そして、2人は、ユーリカリアを見る。
「リーダー、長くなりそうだから、2人を止めてください」
「おい、元はと言えば、お前が、余計な事を言ったからだろう」
「そうでしたか? でも、シェルとウィルの口喧嘩を止めるのは、リーダーが一番ですから、お願いします」
ユーリカリアは、納得できない様子でいるが、仕方なさそうにシェルリーンとウィルリーンの方に行くと、何やら、シェルリーンに耳打ちすると、シェルリーンは、ピタリと言葉が止まった。
「カインクムさん。 支払いは、店でお願いします」
「ああ、じゃや、店に戻ろう」
そう言うと、店に戻っていった。
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