第53話 支払い


 カインクムとユーリカリア達が、店に向かった。


 そこには、フィルランカが、お茶の準備をして待っていた。


 ユーリカリア達は、それぞれが発注した剣を持って、店の中に備え付けられているテーブルに向かった。


 それぞれが思い思いに座ると、フィルランカが、お茶を入れ替えて、お菓子を用意してくれた。


 パンケーキに蜂蜜を掛けてあった。


 ユーリカリア以外は、全員、目の前に置かれたパンケーキに目が行ってしまっていた。


 ユーリカリアは、甘い物も良いのだが、酒が出された時程に興味はそそられてない様子でいる。


「せっかくだから、軽く食べながら、話をしよう」


「「「いただきます」」」


 カインクムが、お茶とケーキを勧めると、ユーリカリア以外が、声を揃えて、いただきますを言ってきた。


「あ、いただきます」


 その後をユーリカリアが、慌てて、いただきますを言った。


 その後は、ユーリカリア以外全員が、パンケーキに手をつけていた。


 そんな5人を他所に、ユーリカリアは、お茶を啜っていた。


 パンケーキを食べ始めた5人は、思い思いに自分の前に出された皿から、フォークで切って食べていた。


「これ、フィルランカさんが、作ったのですか?」


 一口食べ終わったところで、ヴィラレットが声をかけた。


「ええ、皆さんがお見えになったら、お出ししようと思って準備しておいたのですよ」


 フィルランカとしたら、中銀貨5枚の売り上げをしてくれる、高級客なのだ。


 その程度のサービスは、当たり前だと思って出したのだ。


「これ、蜂蜜がかかってますよ」


「いや、それどころか、ケーキにも砂糖を使っているぞ。 本格的なケーキだぞ」


 ヴィラレットが、フィルランカに話しかけると、周りで食べていたメンバー達が、ヒソヒソと話し始めた。


 そして、大事そうに食べていると、ユーリカリアも、周りの話を聞いて、自分もパンケーキに手を付けた。


 ただ、その中で、1人だけが、一気に食べていた。


「あーっ、美味しかったです」


 そう言って、一気に食べてしまったのは、シェルリーンだった。


 それ以外の5人は、味わって食べていたのだが、シェルリーンだけは、一気に食べ終えると、お茶を飲んでいた。


((やっぱり、シェルは、雑だわ))


 その姿を見ると、周りは、声には出さずに、シェルリーンを見つつ、全員が、シェルリーンから、お皿を離すように、そーっと動かし始めた。


 そんな事にシェルリーンは、気が付かずに、お茶を飲んでいた。


 ただ、他は、ゆっくりと、噛み締めるように食べているので、食べ終えて、落ち着くと、シェルリーンは、周りを気にし始めた。


 シェルリーンは、食べ終えているのだが、他は、半分も食べてないのだ。


 やらかしてしまったシェルリーンに、周りは、目を合わせないようにしつつ、シェルリーンの横に居たフェイルカミラとウイルリーンは、徐々に、椅子をシェルリーンから遠ざけていた。


 そんな周りのメンバーの態度が、シェルリーンは、気になりだすと、ジト目で周りを見出しながら、お茶を、今度は、啜るように飲み始めた。


 そして、ユーリカリア達は、無言で、パンケーキを食べるのだった。




 そんな雰囲気の中、カインクムと、フィルランカは、困った様子で、話しかけられずにいたのだが、その雰囲気を終わらすように、ユーリカリアが、ケーキを半分食べたところで、カインクムに声をかけた。


「剣の出来栄えは、全員、満足できたようだ。 支払いは、それぞれが、行うので、とりあえず、私の分の支払いを終わらしておく」


 そう言って、カインクムの前に、中銀貨1枚を出した。


 すると、周りも、一人一人、中銀貨1枚を、カインクムの前に出した。


「ああ、ありがとう。 確かに受け取った」


 そう言って、カインクムは、中銀貨5枚を受け取ると、フィルランカに渡した。


「これ、いつものところに入れておいてくれ」


 フィルランカは、受け取ると、中銀貨5枚を持って、奥に持っていった。


「これで、その剣は、あんた達のものだ。 ゆっくりと、食べていってくれ」


 そういうと、カインクムは、お茶を啜る。


 そして、シェルリーン以外は、出されたパンケーキを、また、食べ出した。


 その様子を面白くなさそうにしながら、シェルリーンは、お茶を啜っている。




 すると、カインクムは、テーブルの上に銀貨を12枚置いた。


「頼みがある。 その今日渡した剣なのだが、可能な限り人目につくようにしてもらえないか。 これは、その宣伝費用として受け取ってほしい」


「なるほど、1人、銀貨2枚で宣伝してくれって事か」


 カインクムの話になるほどなとユーリカリアは、思ったようだ。


 それに、フィルランカに自分達の支払金を、しまわせてから話のなら、フィルランカには、知られたくないと思ったようだ。


「しかし、これだけの細身の剣だと、実際に使わないと分からないでしょう」


 フェイルカミラは、自分では、分かっているが、今までのイメージというものがあるので、通常の半分以下の刃幅の剣が、そう簡単に売れるとは思わなかったようだ。


「確かに、これは、使ってみなければわからないと思う」


 フィルルカーシャもフェルカミラの意見に同意したようだ。


「ああ、確かにそうだ。 だが、ユーリカリアの剣は刃幅も広い。 それに、エルメアーナの剣を持っているなら、その剣がものを言う」


「なるほど、南の王国のよく斬れると噂の剣がある。 不安に思うなら、ユーリカリアの刃幅も作れるというわけですか」


「そうですよね。 この前、そのエルメアーナさんの剣を、宿の裏で試し斬りしてみましたけど、私の剣と遜色無く使えました」


 ヴィラレットが、カインクムの剣は、エルメアーナの剣と変わらないと言ってくれた。


 当然、出どころは、ジューネスティーンなのだから、その剣を真似て作っているので、出来上がりは、ほとんど変わりは無い。


 そして、お互いに鍛冶の腕は、一流ときているので、斬れ味は遜色無いのだ。


「なるほど、それなら、この店で売られている剣は、噂の剣と同じとなるのですか」


「それだけじゃ無いでしょう」


 フェイルカミラの話に、今まで黙っていたウィルリーンが、口を挟んできた。


「本命は、カリアの剣ですよね」


「ん?」


 ユーリカリアは、宣伝をすることは、すぐに分かったようだが、本命は、自分の剣と言われて、よくわからなかったようだ。


「一般的な曲剣は、刃幅が広いし、厚みもある。 今までの剣のイメージを、拭い去るには、かなりの時間が必要になるわ。 でも、カリアの剣は、刃幅が広い」


「ああ、そういう事ですか。 それなら、リーダーの剣は、うってつけですね」


 ウィルリーンの説明にフェイルカミラが、気がついたようだ。


「それは、どういう事なんですか?」


 シェルリーンは、ポカンとした様子で、フェイルカミラに確認する。


「ああ、リーダーの剣は、刃幅が広いだろ。 あの広さなら、今までの曲剣のイメージから、直ぐに移せるってことさ」


「ああ、そういえば、私も曲剣のイメージが合ったから、刃幅を広くしてもらったんだ」


「ふーん」


 ユーリカリアの話に対して、ウィルリーンは、ジト目で見た。


「な、なんだよ」


「いえ、別に」


「チェッ!」


(少し位、私にも良い所を持たせろよ)


 ユーリカリアは、不満そうな表情をした。


「カインクムさん。 言われた通り、宣伝を含めて、この剣を使わせてもらうよ」


「ああ、よろしく頼むよ」


 納得した様子で、12枚の銀貨を1人2枚ずつ渡す。


「あれ、きっと、剣のこと追求されたくなかったのよ」


「そうなんですか」


 フィルルカーシャが、小声で、ヴィラレットに言うが、それを、ユーリカリアに睨まれると、慌てて、明後日の方を向く。


「きっと、うまくいきますよ、カインクムさん。 ちゃんと、宣伝します」


 そう言うと、ユーリカリアは、椅子から立ち上がる。


 それにつられて、他のメンバー達も立ち上がると、ユーリカリアが、礼をする。


 それを見て、全員が、カインクムに頭を下げた。


「ありがとうございます。 大事に使わせてもらいます」


「ああ、注文してくれて、ありがとう」


 カインクムは、少し寂しそうに答えた。


 ユーリカリアは、カインクムの言葉を聞くと、すぐに店を出て行った。


 その表情には、何か思うところがあるようだ。




 店を出ると、ユーリカリアは、黙って、歩いていた。


 その少し後ろで、いつでも声をかけられそうなところをウィルリーンが歩いている。


 リーダーと副リーダーの雰囲気が、何も聞くなと言っているように思えたのだ。


「リーダー、どうかしたのですか?」


 ヴィラレットが、フェイルカミラに声をかけた。


「いや、リーダーじゃないだろう。 あれは、カインクムさんの思いを受け取ったんだ。 その思いが、重いと感じたんじゃないか」


「きっと、カインクムさんは、この5本の剣に、とても思い入れがあったんじゃないかな」


 フィルルカーシャも、何かを感じた様子でフェイルカミラの話に乗ってきた。


 ヴィラレット達は、カインクムの思いをもらった5人の重圧のようなものを感じたようだ。


 そして、自分の腰にさしている剣を見る。


(これにも、カインクムさんの思いが詰まっているのね)


 魂のこもった剣を受け取ったのだと、ヴィラレットも実感するのだった。

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